銭形平次捕物控 017 赤い紐 / 野村胡堂
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「金沢町のお春――あの油屋の一粒種の小町娘が、夕方から見えなくなっ
平次はガラッ八を促し立てて、一と走り金沢町へ、何やら第六感をおののかせながら飛んで行きました。
金沢町の油屋の一人娘お春というのは、今年十九の厄、あまり綺麗
、いろいろに装わせることが流行りましたが、お春は金沢町のピカ一だけに、今年は思い切って手古舞姿になり、町内の若い師匠
平次が金沢町へ駆け付けた時は、もう行列を揃えて、近辺を練り廻そうという
見得、双肌を脱いで、縮緬の長襦袢一つになり、金沢町自慢の「坂上田村麿」の山車の先登に立つと、全く活きた人形
そう言って顔を挙げたのは、同じ金沢町の質屋の娘お勢、殺されたお春とは無二の仲で
金沢町の山車の前には、手古舞姿の美しい娘が五人、お勢
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神田祭は九月十五日、十四日の宵宮は、江戸半分煮えくり返るような
銭形の平次も、御多分に漏れぬ神田ッ子でした。一と風呂埃を流してサッと夕飯を掻込むと、それ
翌る日は九月十五日、日本晴の上天気、いよいよ神田祭の当日でした。
その頃の神田祭、二百六七十年後の今とは、まるっきり違ったものに
去年の神田祭に、お春が言い出して、縮緬の揃いを拵えることを約束し
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ような賑わいですが、この辺はさすがに人通りもなく、お茶の水の夜の静けさが、遠音の祭を背景に、妙に身に沁みます
から差出すと、その頃はまだ、藪も段々もあったお茶の水の崖の下に、夜目にも白々と手古舞姿の女の死体が横たわっ
「よしよし、明るい内にお春を絞めて、お茶の水の崖まで引摺っても行けまいから、お前さんには罪はないだろう」
怪訝な顔をして、マジマジと平次を眺めました。お茶の水の崖で、揃いの手拭を拾ったことは、その時立会った二三人
の緒で人一人殺せるわけもなく、死体を聖堂裏からお茶の水の崖まで引摺って行けるわけもない」
何という不気味な声でしょう。月はかなり高くなって、お茶の水の川がキラキラと光ります。