神楽坂 番町 日光山 石見銀山 江戸 神田 市ヶ谷 飯田橋 日本橋

「寮も隠居所もないが、神楽坂裏に久しく空いている貸家が一軒あるそうですよ」

小僧の直吉を先に立てて、平次と八五郎はさっそく神楽坂に向いました。

帳面から切抜いた紙に、右肩下がりの字で、――神楽坂の貸家――とか何とか書いたのが入っているはずさ」

匕首がありました。ヘエ、今聴くと音松さんが、神楽坂の空家で殺されたそうで、本当に怖ろしいことでございます」

「時刻も合っているようです。――もっとも、神楽坂へ廻って、待ってなんかいずに音松を刺して、すぐ帰って来るよう

だけだが、ちょいと変じゃありませんか親分。神田から番町へかけて、並ぶ者のないと言われた上総屋音次郎が、死んで一

てはいけない。飯田町の上総屋、――神田から番町へかけても、並ぶ者がないと言われた大分限の上総屋には

溜め込んでいるに違いありませんよ。公儀御用を承って日光山の御修復まで引受けたこともある男ですもの」

「石見銀山かな。――お嬢さんの味噌汁にだけ入っていたところをみると、

「仙之助の行李の中に、石見銀山の使い残りと、少し血の付いた匕首がありました。ヘエ、今聴く

「石見銀山と血染めの匕首を、仙之助の行李に隠したのは、賢いようでも女

八五郎は、またニュースを一つ嗅ぎ出して来ました。江戸の町々がすっかり青葉に綴られて、時鳥と初鰹が江戸っ子の詩情と味覚を

――親分に植木屋を始めて貰って、あっしはそれを江戸の縁日へ持出して売る」

たったそれだけだが、ちょいと変じゃありませんか親分。神田から番町へかけて、並ぶ者のないと言われた上総屋音次郎が、

「驚いてはいけない。飯田町の上総屋、――神田から番町へかけても、並ぶ者がないと言われた大分限の上総

「まごまごしていると、市ヶ谷の富蔵親分が、誰彼の見境もなく縛ってしまいますよ」

早く見付けたのは、山の手で顔を売った御用聞、市ヶ谷の富蔵です。中年者の強かな顔には、さり気ないうちに敵意が燃え

「市ヶ谷の親分、何か大変なことがあったんだってね」

市ヶ谷の富蔵は少し皮肉な調子で、ニヤリと平次を見るのです。

「市ヶ谷の兄哥、この仕掛けは古いものじゃないぜ」

「市ヶ谷の親分が縛って行きました」

「市ヶ谷の親分が仙之助を縛って行くのも無理はないが、そいつは少し早まっ

飯田橋中坂下の大地主、上総屋に駆け付けた時は、家の中はまだ

「番頭さんは夕方から日本橋の御親類へ、仙之助さんは音松さんの出たすぐ後で、やはり町内