東大寺 江戸 目黒

三十三種は勅銘で、第一は蘭奢待、これは東大寺に在る勅封の名香、昔は将軍一代に一寸四分切り取って下賜に

ない、来年の念願だが、若し天下第一の名香『東大寺』を聞くことが出来たら、私の邪念が霽れるかも知れない」

「東大寺と言うのは、下々では手に入れる由も無い、蘭奢待の名香だ

「織田信長公が東大寺の蘭奢待を一寸八分に切らせて頂いたのを、三分の二

。天禀の智恵と身の軽さを利用して、江戸から近郷へかけて、有名な仏像仏具を盗んで、片っ端から削っては焚き

と、一体の人数、往来の人に足取りを訊し乍ら、目黒の方へ揉みに揉んで馳け付けました。

その頃はことの外繁昌した目黒の不動ですが、朝の事で境内には女乗物がたった一つ、

顧みなかった為に、瞬く間に没落して、今は目黒の寮に、昔の栄華は名残ばかり、妙に気随な、その癖骨

は御隠居英山公の代参を仰せ付かり、手筥まで預って目黒の不動様に詣でたお園が、フトした事から、許嫁丈太郎の

英山公の許しがあったので、お園は丈太郎を目黒の寮まで送り届けると、口止めやら心付けやらを存分にはずんで、供の者

赤い夕陽が目黒の森に落ちて、春乍ら悲しい風物です。

ん。兎に角お園は名香を手に入れると、直ぐ様目黒の寮へ飛んで来ました。操にも命にも換えた名香を