寛永寺 下谷 上野 神田

上野のお山とはお掛りが違ふが、藤屋は寛永寺の御出入りで、ことに御扱ひも御丁寧だ。ザラの町人並に罪の

内輪はお前も知つての通りの火の車だから、上野の寛永寺樣に出入りの株でも賣らなければ、差迫つての千兩の工面は

「親分、大變ですよ。下谷廣徳寺前の藤屋に人殺しがあつたんですが、三輪の親分が

「お山同心の大和田金三郎樣ですよ。廣徳寺前は上野のお山とはお掛りが違ふが、藤屋は寛永寺の御出入り

八五郎を叱り飛ばしながらも、手早く支度に取りかゝりました。上野山内は治外法權で、そのお山同心は異常な權力を持つてゐ

廣徳寺前の藤屋といふのは、上野東叡山の御用を勤めて巨萬の富を積み、町人ながら苗字帶刀を

「上野の子刻が鳴つて直ぐ起きました」

だけ、内輪はお前も知つての通りの火の車だから、上野の寛永寺樣に出入りの株でも賣らなければ、差迫つての千

の夕暮でした。二人はそんな事を話しながらブラリブラリと神田へ――赤トンボが八五郎の野暮な髷節をかすめてスイスイと飛びます