江戸 向島 神田 隅田川

それから二た刻ばかり、江戸の街々もすつかり寢鎭まつた頃、平次は横山町の自身番を覗きました。

に納まつて、亂舞も大方凪いだ頃、船は向島の土手の下、三間ほどのところへズブズブと沈んでしまひました。

「そいつは御免蒙らう、向島ぢや繩張り違げえだ」

向島で沈んだ船を見て、百本杭へ死骸を見に行つた平次

「俺は神田の平次だ、話して見ちやどうだ」

伽羅大盡磯屋貫兵衞の凉み船は、隅田川を漕ぎ上つて、白鬚の少し上、川幅の廣いところを選つて、

鎭まり返つた隅田川の夜氣を亂して、船の中には、一瞬氣違ひ染みた

貫兵衞の背後に隱れたりしました。船は丁度隅田川の眞ン中に停つたまゝ、一寸も動く樣子はありません