銭形平次捕物控 232 青葉の寮 / 野村胡堂
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「殺されたのは、今戸の志賀屋の伜伊三郎だよ」
竹屋の渡しの番所の前も通つてゐない。多分今戸か眞崎で伊三郎に逢ひ言葉巧みに誘つて船に乘せ、お里に逢は
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なつたばかり、町々は青葉に綴られて、その頃の江戸はさながらの田園都市でした。
た時、志度の浦の海女だつたのを見染めて、江戸へ連れて來て磨き拔いた女だといふことだがね」
といふ傳説のあるところ。それにしても海女を江戸につれて來て、自分の女房にしたといふ、越後屋の物好きは相當
するやうな健康と大空のやうな寛達さに打ち込んで、江戸へ連れて來る氣になつたものでせう。
は、潮焦けのした漁師の伜でしたが、江戸の水で磨いて、何時の間にやらあんなに好い男になつたけれど」
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た。文治に對して好意を持ち過ぎてゐるので『三崎に育つた漁師の子』とは素破拔き兼ねた樣子です。
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川岸つぷちを上手へ駒形から上流は殺生禁斷で、水戸の下屋敷あたりから上流は、全くの別天地でした。
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御用聞の平次は、戀女房のお靜と一緒に、神田明神下の路地の奧に住んで、三文植木の世話を燒きながら、
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人の娘の命に拘はることと言ふと、そいつは向島の越後屋の寮の話ぢやないのか」
「何んでもありやしないよ、『向島の水神の、越後屋の寮にゐる三人娘が、不思議なことから命
「とも角、向島へ行つて見ませうよ」
てゐたが、昨夜大きな追ひ込みがあつて、兩國から向島まで、すつかり網を張つてゐたよ。夜つぴて見張つた者に
權次がゐなくて船は出せず、折惡しく橋から向島へかけては、泥棒の追ひ込みで滅多な人を通さないから、河岸
「橋から向島へかけて追ひ込みがあつて、往來の人を一々調べた筈だが
た晩誰にも見られずに、兩國橋を渡つて向島へ來たといふのも變ぢやないか」
知らないと言つたのも細工が過ぎて變だし、向島に追ひ込みのあつた晩誰にも見られずに、兩國橋を渡つ
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の深さを持つた一種の堀割は、水門一つで隅田川の水面に繋がつて居り、此處に小舟など用意するのが、贅澤
さに、平次は妙にしんみりとしてしまひました。隅田川を船で横斷することは、大したむづかしい事ではないにしても
へ、時々忍んで來る男があるといふぢやないか。隅田川を船で渡つて、水門から入るのは、洒落れたものだね。いづれ
育ちで泳ぎの名人だ。着物を頭の上に載せて隅田川を泳いで歸つたに違ひない――とかう三輪の萬七親分