銭形平次捕物控 002 振袖源太 / 野村胡堂
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怨多い晩春の夕、八丁堀から大川端へ出ると、何だかかう泣きたくなるやうな風物です。
朗らかに笑ふ新三郎を伏し拜んで、平次は八丁堀の往來へ飛出しました。襟へベツトリ冷汗。
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たら、お前にも判るだらう。公儀御用の呉服屋、西陣の織物を一手に捌いた本家福屋の番頭から仕上げた善兵衞が、暖簾
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つて、長崎へ落延び、異人に輕業を教はつて江戸へ乘り込んで來ると、善兵衞はあの通り日の出の勢ひだ。子供一人づつ
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「俺は漸く命だけを拾つて、長崎へ落延び、異人に輕業を教はつて江戸へ乘り込んで來ると、
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日本橋通り四丁目に八間間口の呉服屋を開いて、一時越後屋の向うを張
の五日、二番目の二十一になる息子が、これも日本橋の家で、一と晩のうちに行方が判らなくなつてしまつたの
最初は先月の二十五日、二十四になる總領が、日本橋の店から白晝煙のやうに消えて無くなり、月を越して本月の
いふのは此間行方不明になつた姉のお清と共に、日本橋の二人小町と言はれた美人ですが、自分の身に降りかゝる恐ろしい危難
と言はうか、大袈裟と言はうか全く話になりません。日本橋の店から來た屈強な手代が十五六人、それに平次の手下
、廊下には信用の出來る子分を二人張り込ませ、自分は日本橋からやつて來た大番頭の嘉七、寮の番人夫婦などと一緒に、
籠つてしまひましたが、いかに警戒が大事でも、日本橋小町と謳はれた十六娘の寢室に押し込んで、その美しい寢顏の番人まで
「親分さん、お早う御座います。日本橋のお店で雜用を致して居りますが、今日は向島の寮が忙しいから
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ては居られませんから、二十四日の晩からお糸は向島の寮へやつて置くつもりです。ついては親分、忙しいところを、何
その日、娘のお糸を護つて向島の寮の警戒は、物々しいと言はうか、大袈裟と言はうか全く話になり
に通ふ猪牙の音の繼續したのも暫し、やがて向島の土手は太古のやうな靜寂に更けて行きます。
嫌な事を言ひ殘して、利助は向島の方へ――、後も見ずに立去ります。
。日本橋のお店で雜用を致して居りますが、今日は向島の寮が忙しいから、彼方へ行つて見てくれといふお話しで――
であらうと思はれて居る五日の朝から、平次は向島の寮に入り込んで、八門遁甲の陣を敷くほど念入りに準備を整
しません。フラリと飛出すと、ツイ寮の入口から、向島の土手の上に驅け上がつてしまひました。