石見銀山 小日向 甲府 品川 草加 神田

「あの婆やは石見銀山で毒害されたんだよ。婆やが寢酒を呑むことを知つて居る

小日向に屋敷を持つてゐる、千五百石取の大旗本大坪石見、非役で内福で

思ひ付くことがあるかも知れないが、その頃私は甲府の御勤番でな」

ゐるんだ。息を吹き返す道理はない。婆やの伜が品川に居る筈だから、大急ぎで人をやつたが、まだ來ないよ」

「關と言ひました。草加の百姓午吉の子といふことで育ち、淺草に引越して、もう十

「もう少し詳しく話してくれ。その草加で育つたお前が、どうしてこの大坪樣の子だと名乘つ

は、娘濱路を産んで間もなく亡くなり、嬰兒は草加の百姓午吉夫妻に預けられて、三つになるまで育ち、それから

年前この屋敷の奧方が亡くなつて嬰兒濱路を草加へ里子に出したのも事實、その濱路が十九になつて、婿選み

「親分、こいつは驚くぜ。荒物屋の午吉――草加から出て來て、安賭場を泳いでゐる男が、土左衞門になつ

なりさうだが、實はさう容易く行く藝當ぢやない。草加の百姓へお孃さんを里に出して、立派なお旗本が三年

「殿樣、さぞ御心配なことで。――私は神田の平次でございます」

「御苦勞だな。――近頃神田の平次といふと大層な評判だから、右内が兎や角言ふのを

そんな事を言ひ乍ら、二人は妙に物足りない心持で神田へ急ぐのでした。