本所 兵庫 江戸 駒形 金龍山 下谷 向島 浅草 神田 隅田川

「本所へ行くくらいなら、向う岸へ引返した方がよかろう。少しでも御屋敷へ近く

兵庫は顔を挙げて苦笑いしましたが、左の眼の痛みに引釣って

平次は口を容れようとしましたが、兵庫はそれに構わず続けます。

歯を喰いしばる女の苦悶の姿は、どうかしたら、兵庫には快いものに映るのかもわかりません。たった一つの眼が、

兵庫は続け様に弓の折を振り冠るのでした。

平次はそう言いながら、激情に駆られるように、兵庫と女の間に割って入りました。

兵庫はまたお町の頭の上へ弓の折を振り上げました。

お町の言うのは本当でしょうが、兵庫は、

婦人で、取立てて言うほどの特色はありません。夫兵庫の放埒を止める力もなく、蔭では泣いているといった型の、

も、若年寄の御邸へでも駆け込んでやりますよ。兵庫の野郎に腹を切らせて、あの邸にペンペン草を生やさなきゃア、胸が

大村兵庫決して馬鹿ではありません。

少し御世辞になりましたが、兵庫も悪い心持はしなかった様子です。

兵庫の一つの眼はギラリと光ります。

が、兵庫はこれで堪能し、狷之介はすっかり油を絞られた形です。

重ねて問う兵庫には答えず、平次は庭の方へ向き直りました。

と兵庫、縁側から庭へ、足袋跣足で飛降ります。

村川菊内外一同、寄ってたかって兵庫を座敷へ押上げてしまいました。

仰せだ。かようなことは素人に手の付けようなく、江戸一番の御用聞と聞いて参ったわけだ。何と引受けてはくれまい

が同時に、それだけの腕を持った人は、広い江戸にも幾人もありません。

「この十年の間、江戸で高名な楊弓の名人を書き上げて貰って、その道の者に一人一人身元を

、殿様に怨みを酬いる折を狙ったのでございます。江戸の楊弓番付をどんなに調べても、殿様に怨みを持つ者のなかったの

駒形の大村邸に行った平次とガラッ八は、大変な情景を見せられてしまい

の菰冠りがありますから、竹屋の渡しを渡って、駒形まで飛んで帰りましたよ。三升ばかり取り分けて駆け出そうとすると吾妻橋手前で

「こう、金龍山の鐘が陰に籠ってボーンと鳴ると、五臓六腑へ沁み渡りますぜ」

た。両親には過分のお手当を下すったはずだ。下谷で安楽に暮しているよ」

（例）向島

「八、花は散り際って言うが、人出の少なくなった向島を、花吹雪を浴びて歩くのも悪くねえな」

の平次と子分の八五郎は、こんな無駄を言いながら、向島の土手を歩いておりました。

「ヘエ、巾着切じゃありませんかねえ。花時の向島土手で、不意に後ろから突当るのは、巾着切と決ったような

「向島の土手じゃ医者がありません。本所へ行かなきゃア」

兼ねて、平次の後ろから袖を引いております。昨夜向島の堤でガラッ八に突当ったのは、そのお町という女でしょう

「その浅五郎が、昨日向島の土手の上をウロウロしているのを見た者があるのだ」

楊弓の技に優れた人だったら、向島の土手の上から、船の中の人の目を射るのは、さして

八は驚いて平次の袖を引きました。あの晩、向島の堤で、船の騒ぎを覗いていた人間に紛れもなかったの

お町も共謀だろう、――浅五郎が船を追っかけて、向島の堤を往ったり来たりしていたのを、この私が確かに

浅草の方から小舟でやって来た三吉。摺れ違い様、川の中で

翌る日用人の村川菊内、神田の平次を訪ねました。

町の折檻だ――ところでそのお町という女中が神田の銭形平次親分を呼んで下さい。あの方は何もかも御存じだから

「神田の平次を召連れて参りました」

お町さんを貰って来たんだ。なア、浅五郎が神田の家で待っているぜ」

だろう。紫檀の継弓を捨てるくらいなら、自分の身体を隅田川へ捨て兼ねないよ。――俺はそう気が付いたから、村川