銭形平次捕物控 060 蝉丸の香爐 / 野村胡堂
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「行先は東海道だ、――江の島で心中をするんだつて」
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屋與次郎といふ、大跛者の愛嬌者だが、娘は本郷一番のきりやうですよ。あんなピカピカするのは、江戸一番と言つても
平次は何んの得るところもなく、本郷へ歸つて來ました。
「本郷の與次郎さんは居ますか、――大、大變な事が――」
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「いや、三年ほど前、名古屋から添状を持つて來た男だが、よく氣の付く働き者で、今で
平次は此處まで追ひ詰めて行つたのです。名古屋から添状を持つて、三年前に來た甚助の、苦い顏といふもの
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「玉屋の番頭の甚助が、湯島の聖堂裏で絞め殺されて居るのを、往來の人が見付けて大騷ぎし
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のやうに渡れる、恐ろしい人間が居るに相違ない、――江戸ではそんな惡者の話は聽いた事が無いから、多分他國から
その頃の江戸の町人は、滅多に駕籠に乘れなかつたもの、急ぐ用事は、二本の
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何と言ふ器量の惡さ、二人はスゴスゴと神田へ引揚げます。
二人は默つて又神田へ取つて返しました。萬策盡きた姿です。
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行つて居た古道具屋の與次郎は、その日の夕刻、上野の鐘が六つを打つと一緒に、大變な使を受取りました
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け出しました。上根岸から御徒士町へ、筋違ひから、日本橋へ――。
無法な道行から引戻すことも出來たでせう。が、日本橋へ差かゝつた時、與次郎は思はぬ障害に出つ逢しました
上根岸から日本橋まで、ほんの四半刻ともかゝりません。この勢ひで驅けて行つたら
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ともかゝりません。この勢ひで驅けて行つたら、品川手前でお糸に追ひ付き、その無法な道行から引戻すことも出來たで