銭形平次捕物控 164 幽霊の手紙 / 野村胡堂
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を多勢の人が見て居る。伯父の甚五兵衞が八丁堀へ行つた歸り提灯をつけて永代橋へ差しかゝつたところを、いきなり飛び出し
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尤も二三日前、專三郎の味噌汁の椀の中に、石見銀山の鼠捕りが入つてゐたさうだが、味が變だからと一と口
のは、八五郎の馴れた眼には、紛れもない石見銀山の鼠捕りと判るではありませんか。
なりました。殺される三日前、專三郎が危ふく石見銀山の鼠捕りを呑まされるところであつたといふ噂を思ひ出したのです。
「俺にも解らないよ。だが、石見銀山を手に持つて居たのは可怪しいな」
潔白で何んにも知る筈はない。證據となつた石見銀山も身に覺えがないからこそ手に持つて居たのだ。血染
氣になれない。それに三日目に娘の部屋から石見銀山が出たり、血染の袷が出るのも變ぢやないか、――其處
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金を持つたこともないから、懷ろ手をして江戸の町が歩けるんだ」
さう言ふ江戸の町はもう秋でした。赤とんぼのスイスイと飛ぶ河岸縁を、襁褓臭い裏通り
ん氣らしく、昔は隨分荒つぽい人足を叱り飛ばして、江戸で何番と言はれた材木屋の店を預かつた人間でせう。
「三宅島で死んだ彦太郎の幽靈が、江戸へフラフラ來るわけはない。いづれは足のある幽靈の仕業だらうが、
彦太郎は島に着いてから死んだといふことにして江戸の役所に屆けたのでした。自分達の手落ちになるのを恐れた、
かゝつた漁船に助けられ、それから半歳經つて漸く江戸に歸りました。
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なアに、そんなたいした相手ぢやない。お前も知つての通り、深川島田町の佐原屋の支配人殺しの一件だが、下つ引任せで
深川島田町への道すがら、錢形平次は八五郎のために、事件の經
「佐原屋といふのは、深川の材木問屋でも一二と言はれた家柄で、店の株、諸國の
のスイスイと飛ぶ河岸縁を、襁褓臭い裏通りを、足早に深川へと廻りながら、平次の話は續くのです。
ばかりは恐ろしい縮尻をやりました。翌る朝早々と深川の島田町へ行くと、町内は唯ならぬ物のけはひ。
よ。斯んな時は精一杯落着くことだ。お前は深川中の下つ引を集めて、これだけの事を調べてくれ」
なか/\良く、もう七八年も此處に住んで、深川中を貰ひ歩いて居るといふのです。
のか、――何? 躄の乞食が五年前深川へ來たのを、土地の人が十年も前から居るやうに思つ
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すつかり町人になり濟まして居ますよ。二三年前から品川の沖釣りで心安くなつて、竿先三尺の附合ひで」
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「あつしは神田の八五郎だが、飛んだことだつたね。ところで、支配人の專
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「專三郎の女房か――、日本橋の親類へ泊りに行つたよ、――尤もよく專三郎と喧嘩はする
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伯父の甚五兵衞が八丁堀へ行つた歸り提灯をつけて永代橋へ差しかゝつたところを、いきなり飛び出して撲り殺し、死骸を大川へ投り
平次の話が次第に佳境に入る頃、二人は丁度永代橋を渡つてをりました。ガラツ八は悉く感に堪へて、
をかき亂した八五郎親分の罪だ。幸ひまだ永代橋を渡つた樣子はないから、遠くへは行かない筈だ。一刻も早く
つても構はないよ。――あ、待つてくれ。永代橋まで一緒に行かう」
平次はガラツ八と肩を並べて、永代橋の方へ注意深く歩き出しました。色の淺黒い顏がすつかり緊張し
からそればかり考へて居るんだ。――あの手紙に、永代橋を渡らない――とあつたらう。身を隱したにしてもこの