銭形平次捕物控 056 地獄から来た男 / 野村胡堂
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「いえ、一緒に參りました。が、鎌倉で手間取つて皆さんから一と足遲れ、片瀬へ着く途端に棧橋
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、変り果てた顏容を幸ひ、幽靈のやうに、江戸へ舞ひ戻つた人間で御座います」
解りません――私はそれを知り度いばかりに、江戸で半歳苦勞いたしました」
と、大島へ持つて行つて、漁師に世話を頼んで江戸へ歸つたさうで御座います」
を見た千之助は、本名を名乘ることも、暫らくは江戸へ歸ることも斷念してしまつたのでした。
達者になつて江戸へ歸つて、自分の眼でお新の顏を見て、その貞烈を見
村人に禮を言つて、再び御用船の厄介になり、江戸へ歸つたのは半歳前。
を聽き、番頭の要助さんと一緒に、早駕籠で直ぐ江戸へ取つて返したやうなわけで御座います」
、店構から住居の造作、細々した調度までその頃の江戸の大町人らしい贅を盡して居ります。
―災難に逢ふ前の男つ振りも評判でしたが、江戸の若い娘達が、丸屋の長次郎の方により強い魅力を感じたのも
「徳力屋の千之助が、生きて江戸へ還つて來たが知つてるだらうね」
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ました。月に一度の大島通ひの御用船が、三崎の沖で拾ひ上げて、まだ呼吸があるやうだから可哀想に捨てもなる
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「江の島の崖の上から突き落された時、途中の木にも岩にも打つ付か
「江の島で崖から私を突き落したのは一緒に泊つて居た、從兄弟の
「江の島へ一緒に行つたのは、お前さんと、長次郎と吉五郎と要助の四人
が流れて渡れないと聞かされました。仕方がないから江の島を眼の前に見乍ら、顏馴染の片瀬の小磯屋=女將がお
「そいつは面白い。江の島へ行く時、幾ら金が入つて居たか聞いたらう」
と言ひ張つて居た佐七も、ガラツ八が片瀬から江の島を調べて、三日目に歸つて來ての報告に、顏見知りの片瀬
がないと解つた上、去年二百十日の翌日の晩、江の島の獵師の家を叩き起し、小判一枚投り出して泊めて貰つた、
「江の島で一緒に泊つた三人が潔白だと判つた時、――もう一人近所
に居る奴はないか――と俺は考へたよ。江の島には居ないが、片瀬には居る、棧橋をうまく渡れば、その晩どんな
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それつきり死骸も上がらなかつたといふ事件は、當時神田日本橋かけての噂になつたことを、平次はまざ/\と記憶し
も無理はありません。これは美しい人達の多い神田日本橋かけても、比ぶべきものがあるまいと思ふほどのきりやうです。
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、それつきり死骸も上がらなかつたといふ事件は、當時神田日本橋かけての噂になつたことを、平次はまざ/\と記憶
「御免よ、神田の平次だが、主人にちよいと逢ひてえ」
「あ、神田の親分さん」
のも無理はありません。これは美しい人達の多い神田日本橋かけても、比ぶべきものがあるまいと思ふほどのきりやうです
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そのまゝ、品川の方へ急ぐ平次、佐七は二の句も繼けずに見送りました。
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「私はもう一度隅田川へでも飛込まうと思ひました。――あれほど戀ひ慕つて、