江戸 長崎 神田 京橋

江戸の夏を飾る年中行事も一わたり濟んで、この上は抹香臭いお盆を待つ

「和蘭の國から献上になつて長崎奉行が早馬で江戸の上樣にお屆けしたといふ品ですよ」

よ。御用聞が褒美に釣られてウロウロするやうぢや、江戸の町人が難儀をしなきやならねえ。それに人の命よりお時計の

「和蘭の國から献上になつて長崎奉行が早馬で江戸の上樣にお屆けしたといふ品ですよ」

宵闇の途を神田へと辿りながら、八五郎は話しかけました。

「京橋弓町の御時計師廣田利右衞門樣のところへ、公儀から御貸下

平次は八五郎を伴れて、改めて京橋弓町に向つたのはその日の夕刻近い頃だつたのです。

にも出てゐる公儀御時計師廣田利右衞門で、京橋弓町に堂々たる屋敷を構へ、世々五十俵の祿を食んで立派な