銭形平次捕物控 072 買った遺書 / 野村胡堂
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「八丁堀へ持って行くはずだが、もう少し考えてみる積りで、ここに持って
その晩、平次は八丁堀の与力、笹野新三郎の役宅を訪ねました。
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「本所の御屋敷から呼出されて、昼過ぎから参り、戌刻過ぎにようやく帰って来
「隠すな。本所のお屋敷を出た時刻を訊くまでもなく、俺にはよく解っている
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つれて来ましたよ。少しばかりの知合を辿って、入谷から飛んで来たんだそうで――」
、十八九の美しい娘が、足袋跣足のままで、入谷から神田まで駆けつけたということは、容易のことではありません。それ
その研屋五兵衛が、昨夕酉刻半(七時)過ぎ入谷の寮で、直刃の短刀で左首筋を貫き、紅に染んで死んで
「お前さんは、どうして入谷の寮なんかへ行っていたんだ。お絹さんとかが居ちゃ、あんまり
多いし、落着いて養生も出来ないから――と、ずっと入谷の寮に泊っております。それに、お絹さんは、思ったよりは親切
父親も浮び切れません。お願いでございます。親分さん、入谷まで行って、様子を見てやって下さい」
入谷へ行き着いたのは午過ぎ、役人は帰ってしまって、三輪の万七とその
は五兵衛の娘のお糸、――変な羽目で、入谷の寮で、父親の五兵衛が旦那に手渡すところを見たのだそうです」
「前の日五兵衛から受取った短刀を持って行くと、ちょうど入谷の寮の四方には人もなく、五兵衛は格子の中で、何か考え事
その貞宗の佩刀を持って、ともかくも、私と一緒に入谷まで、お出で下さいませんか」
二人は根津から入谷へ、――薄寒い早春の夜風を衝いて急ぎます。
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その大名高家への連絡を取ったのは、根津の大町人、公儀御用達を勤むる石川良右衛門で、諸大名はいうに
「それが大変でございました。なんでも、根津の石川良右衛門様が、公儀御腰物方から、御手入を申付けられた
番頭の宗七、手代の駒吉、それに親類が二三人、根津の御用達の石川良右衛門――ざっとそんなものでした。
『拵え不行届』という名目で彦四郎貞宗を、もう一度、根津の御用達石川良右衛門の手に戻されたのです。
銭形平次は、その晩、根津の豪華な屋敷に石川良右衛門を訪ねました。
二人は根津から入谷へ、――薄寒い早春の夜風を衝いて急ぎます。
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八九の美しい娘が、足袋跣足のままで、入谷から神田まで駆けつけたということは、容易のことではありません。それに