銭形平次捕物控 330 江戸の夜光石 / 野村胡堂

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江戸城

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山谷堀へ緒牙船で入らうといふ左手に鎭座まします、江戸城から見るとこれが鬼門に當る」

江戸

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江戸の夜光石

「親分の前だが、江戸といふところは、面白いところですね」

もまだ取れないのに、ガラツ八の八五郎はもう、江戸の新聞種を仕入れて來た樣子です。長んがい顎を撫で廻して、

「面白いに違げえねえな、お互ひに江戸に生れて江戸に住んで、大した退屈もせずに、また年を一つ

面白いに違げえねえな、お互ひに江戸に生れて江戸に住んで、大した退屈もせずに、また年を一つ取つたぢやない

「江戸の喉首、吉原への通ひ路、山谷堀へ緒牙船で入らうといふ

無いといふのは變だ、――といふので、江戸に吉原を開いた、庄司甚内の子孫、庄司三郎兵衞といふ大金持が

「たつたそれだけのことで、お前は江戸が面白くなつたといふのか」

不氣味で傍へ置けないので、堺の商人が江戸まで持つて來て、三百兩で賣りに出た品だといふことです」

堺の町人に賣つたといふ、南蠻人の商人は、江戸へ追つかけて來るやうなことはなかつたでせうか」

「これを江戸へ持込んだ、日本の商人は?」

てをります、小傳馬町の加納屋に泊つて、上方と江戸の間を引つきりなしに歩いて居る。和泉屋皆治と言ふ人で、

木口も立派、調度も何んとなく堂々として居り、江戸の町家のコセコセした造りばかり見て居る眼には、その大どかさに膽

これが江戸の町だつたら、八五郎ほどの韋駄天でも、一丁と行かないうちに、

「御先祖の庄司甚内樣は、江戸の吉原といふ、日本一の盛り場を開きましたな」

「現に私は、江戸の吉原の向うを張つて、お城の裏鬼門に、目黒の盛り場を開かう

江戸の遊女崇拜の思想が、斯うまで根強く浸透して居たのです。その

だけれど、あんなもぎ立ての桃の實のやうな娘は、江戸の眞ん中ぢや見られませんね。若旦那の彌三郎が夢中になるわけ

江戸の町から目黒村に入ると、その頃はまだ、別世界に足を踏込んだ

盛りで、金にも智惠にも事缺かぬ、立派な江戸の旦那衆です。

「それは併し、妙な話ですが、私は江戸の商人の仲介でまともな品として買入れ、何百兩かの入費をかけ

ます。それを狙つて、長崎から大層な惡人が江戸へ入り込んだといふことでございます」

そして、小走りに皆吉に追ひつくと、相携へて、江戸へと急ぐのです。皆吉は小傳馬町の宿へ、平次は神田明神下へ

天の額の夜光石に引かれ、その後をつけて、江戸まで來たに違ひありません」

一度縁あつて江戸に入りましたが、もとの天竺のお寺に還した方が、八方圓

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「最初は、難破して堺の浦に流れついた、異人の船が持つて來たもので、その船の繕

と、夜なんか不氣味で傍へ置けないので、堺の商人が江戸まで持つて來て、三百兩で賣りに出た品だと

「堺の商人はその聖天樣の額の寳珠を、水晶か何んかと思つて

「この像を堺の町人に賣つたといふ、南蠻人の商人は、江戸へ追つかけて來る

――小傳馬町の加納屋に泊つて居るといふ、堺の町人和泉屋皆吉といふ男が、目黒の庄司家を訪ねて來ましたよ

「さう言へば今日、堺の商人の和泉屋の皆治といふ人が來る筈で、あの歡喜天をどう

「ところがいけません。堺の町人は、歡喜天は欲しいが、兩體とも揃つて、無疵のまゝでなけれ

石をゑぐり取られて居ります。あれを見たら、堺の町人――和泉屋皆吉といふ人は、何んと申しますか」

晝少し過ぎになると、和泉屋皆吉といふ堺の町人が來ました。

「私が歡喜天樣をお納めした、堺の皆吉でございます」

堺の商人皆吉の申し出は、寛大ではあるが、妙に嚴重さがありまし

堺の皆吉の話は、なか/\筋が通りますが、この熱心さから見る

兵衞を差し置いて、あの美しく氣高くさへある内儀が、堺の町人に詰め寄つたのは、たいしたことでした。

一應佛像を拜んで行き度い――といふ堺の町人皆吉の申し出を、主人庄司三郎兵衞は拒み兼ねました。女體

道々、堺の商人、皆吉は言ふのです。

私も存じて居ります。遊び人風には見えますが、堺で紅毛人の通辭(通辯)をしてゐた男で、――

「えツ、――だつて、堺の商人の和泉皆吉が――」

平次はそれから、小傳馬町の加納屋に、堺の商人、和泉屋皆吉を訪ねて、最後の打ち合せをしたことは言ふまでも

もないことです。あのお輝さんといふお内儀は、堺の町で遊び女をして居た、照代といつた女でございます。二三

ございます。二三年前フツと行方を晦ましましたが、堺の町で評判になつて居た頃は、遊佐の右太吉と深い仲で

翌る日、堺の町人皆吉が、千二百兩の大金を持つて來て、觀喜天を受取り

長崎

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前に盜み取つて、唐天竺に持つて行くか、長崎平戸あたりの、異人に賣り飛ばすにきまつてをります」

出したものださうで、あとの掛合事がうるさくなり、長崎のオランダ領事の手に返さなきやならないから、千兩で買ひ戻し

珠で、たいした値打でございます。それを狙つて、長崎から大層な惡人が江戸へ入り込んだといふことでございます」

「では、このまゝで結構です。三日經てば長崎から金が着くことになつて居りますから、四日目には間違ひも

兩の大金を持つて來て、觀喜天を受取り、長崎奉行の手を經て、和蘭人に引渡されることになりました。

山形

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花魁となると見識の高いもので御座います。わけても入り山形の二つ星とか、晝三の太夫とか申すのは、大名高家

神田

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一杯目立たないやうに、靜かに働いてをります。神田明神下の家庭は、靜謐そのものですが、八五郎が時々やつて

容易ならぬことでした。平次は早速支度をして、神田から目黒まで、近からぬ道を急ぐことになりました。

平次はさう言ひすてて、神田の家へ歸るのです。

「それね、言はないこつちやない、神田に居たつて見通しだよ。お前が俺の顏を見るなり、いつも喰は

と急ぐのです。皆吉は小傳馬町の宿へ、平次は神田明神下へ。

目黒

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庄司甚内の子孫、庄司三郎兵衞といふ大金持が、目黒のお不動樣の近くに住んでゐるが、先祖の甚内樣にあやかつて

聖天樣の像は百兩で宜いといふことになり、目黒の庄司三郎兵衞がそれを買ひ、さて見る人に見せて驚きまし

「目黒の聖天樣の騷ぎで」

「夜光の珠が盜まれたさうで、目黒から使ひの者が、飛んで來ましたよ」

ぬことでした。平次は早速支度をして、神田から目黒まで、近からぬ道を急ぐことになりました。

目黒の庄司家へ着いたのは、やがて晝近い頃でした。祖先は曾て

た。見送らうとする主人の三郎兵衞を押し止めて、目黒の往來へ出ると、後を追つて出た八五郎は、恐ろしく不足らしい

それから三日目の朝、目黒からの急の使ひで、平次は霜を踏んで行きました。

失つたことでせうが、有難いことに、その頃の目黒は百姓地だらけの田舍で、必死と逃げ出した曲者も、暫らくは身

八五郎の聲は、目黒の野良に高鳴ります。この聲は、曲者の足を竦ませるばかりでなく

江戸の吉原の向うを張つて、お城の裏鬼門に、目黒の盛り場を開かうとして居るくらゐで、せめて伜が、青表紙の

「どうせあつしは甘口ですよ。チエツ、面白くもねえ、目黒くんだりまで來て、馬鹿を吹聽されりや世話アねえ」

變』が、もう來さうな空合だと思つたよ。目黒の庄司家はどうした」

「何しろ、目黒中の若い者を狩り集めて、辨當が出て酒が出て、お

だらうと思ふ。あれが何時まで續くことか、目黒近在ぢや、世直し樣が來たやうに思つて居る」

て居るといふ、堺の町人和泉屋皆吉といふ男が、目黒の庄司家を訪ねて來ましたよ」

何日目かで、平次は目黒の庄司家も訪ねる氣になりました。

江戸の町から目黒村に入ると、その頃はまだ、別世界に足を踏込んだやうな心持

言ふのでした。この時の同行は二人、八五郎は目黒に殘されたことは言ふ迄もありません。

「親分、目黒といふ國は、恐ろしく退屈ですね」

上げてくれないんですか、親分。――せめては、目黒から驅けて來た樣子だから、お茶でも呑めとか何ん

込め、――もう陽がかげつて來たぢやないか、目黒まで歸つたら暗くなるだらう。明日か今日だ、曲者は何をする

贅澤だよ、お前は、それで話が濟んだら、直ぐ目黒へ戻つてくれ」

客だつたさうで、――後を追驅けるやうに目黒に來て、ブラブラ樣子を搜つてるうち、庄司の伜の彌三郎と

大方わかりましたよ。明日は是非千二百兩の小判を、目黒へ持つて來て下さい。頼みましたよ」

千二百兩の念を押して、八五郎の後を追つて目黒へ飛びました。もう日が暮れかけて居ります。

目黒へ着いたのは、もう亥刻(十時)近い時分でした。庄司

堂の扉をコジ開けようとして居るのを見付けて、目黒中に響き渡る大捕物が始まつたのです。

そして目黒に盛り場を作ることを斷念し、伜彌三郎を家に入れて、下女

「だがね、親分。この間目黒へ行つて、庄司の家を覗いて見ましたが、下女のお崎

八王子

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誰も來てくれません。尤も近在と申しても、八王子近くなりますから」

目黒川

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近くに住んでゐるが、先祖の甚内樣にあやかつて、目黒川のほとりに江戸一番の盛り場を押つ開かうと、先づ自分の屋敷

言はれて、庄司三郎兵衞も膽をつぶし、急に目黒川のほとり、自分の家の後ろに堂を建てて、江戸裏鬼門の聖天樣