雪 / 楠田匡介
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何を思い出したか、五十嵐が大声で笑ってぬっと、伊東に盃をつき出した。しばらく新しく盃のやりとりが二人の間で行われ、手
です。あとで署に帰って拝見しましょう……次に伊東でも訊問しようか……一寸呼んでくれませんか」
「え! じゃなぜ、あんな事を伊東にいったんだい」
「今の所、伊東にも外の者にも彼に嫌疑をかけていると思わせておき度
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「うん。そうだってさ。いやだね、樺太まできてさ、せっかく骨休めに来たのに……」
樺太の冬の朝は遅い。その日も九時になってやっと陽がさしかけて
いた時の同僚で、その後久三は、占領直後の樺太に渡り産をなし、新造は新造で神田の古書舗として一家をなし
蔵書の大部分を整理することになり、ふるいなじみの五十嵐を樺太に呼んだのだったが、久三は例の持前の癇癪癖から、一寸し
一通りの挨拶を交し、樺太の生活から、東京の話などで暫く時を過した後、警部はこういっ
「早川さんはあの通りの書籍マニヤで……何しろ、樺太もこんな北になりますと、見るもの聴くものとては何もなく、半年以上
に、石油が凍ってそして消えたのです。私より長年樺太で生活していられる皆さんが、石油が凍ってランプの消える時の状況
五十嵐に就いてたしかめました。彼もこれがあったので樺太まで来たのだといっています。
にドアの下に落ちていたにしても、この樺太の冬です僅な雪は見すごされて終ったでしょう。
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恵須取丸の伊東憲助事務長は久三がまだ達者で、北海道の方へよく古書あさりに出かけたころからの知りあいで最近では久三は彼
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ある樫の木で、縦に長く、巾三寸位の山形の彫んだ刻みが、一行ずつ、違い互の切り込み模様がついていた
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「ああ、おことわりしたんだがね、東京地裁にいた久保田さんが、検事になってきているんだよ―
た。彼は久三老人とは、少年時代、久三がまだ東京の古本屋に、小僧をしていた時の同僚で、その後久三は
その一人五十嵐新造は、東京から早川の蔵書を買いにきていた。彼は久三老人とは、
「久三さん、だったらなぜ、東京からわざわざ呼んだのさ。わしだってあの極楽縁起があればこそやって
高沢寺さんが見えられたものですから、今度の船で東京へ帰られる五十嵐さんの送別会を兼ねまして、何んですか、そんな事
いる。争いした事も金の事で「自分をわざわざ東京からいそがしい中を呼んでおいて、今になって売らんの金高が合わ
一通りの挨拶を交し、樺太の生活から、東京の話などで暫く時を過した後、警部はこういって切り出した。
良い例は、皆様もご存じの通り、去年の夏東京の千住であった。あの五味達の醤油屋殺しです。あの時は帝大の
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、占領直後の樺太に渡り産をなし、新造は新造で神田の古書舗として一家をなしていた。今度、久三がその膨大
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例は、皆様もご存じの通り、去年の夏東京の千住であった。あの五味達の醤油屋殺しです。あの時は帝大の法医学教室