箱根の山 / 田中英光
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箱根の山
私自身が、その東海道五十三次の中、難路を伝えられた箱根八里の山路を幾らかでも歩いて見たくなった。
で、子供の手を引き、松並木の中を、さて、箱根の山を目指して登って行った。
実は親父の私にも箱根の山には幼い頃の思い出がある。死んだ父と母との間に
あったが、その和解の出来た翌日、一家を挙げて箱根の塔沢に遊びに行った。私は恰度、一郎と同じ年頃、今で
と山だけなのを好い事にして、繰返し、「箱根の山は天下の険、函谷関もものならず」と呶鳴ったが、それ
後でちゃんとしたこの歌詞を調べてみたら、「箱根の山は、天下の険、函谷関も物ならず、万丈の山、千
じゃあ一緒に歌うんだよ」と音痴の大声で、「箱根の山は天下の険」一郎には文句が難しいと見え、舌を縺らし
ように流れている凄まじさで、それに比べれば、ここ箱根の険なぞ、箱庭と真物の違いだと思えたが、それにして
と真物の違いだと思えたが、それにしても箱根には箱根で明るい可憐な日本の美しさがある。その美しさにふさわしいこの
違いだと思えたが、それにしても箱根には箱根で明るい可憐な日本の美しさがある。その美しさにふさわしいこの歌を是非
あまり変化のない山路に一郎は倦きてしまったらしい。「箱根の山は」を二人とも歌わなくなると、「ねえ、お父さん、お山
そうなのを我慢して、一郎の手を振り振り、「箱根の山は天下の険」、「アコネノヤマハエンカノケン」親子二部合唱の大声で、部落を
来たので、親子は手を繋ぎ声を揃え、「箱根の山は天下の険」と歌いながら、再び山坂をくねくね登って行った。
――自分一人でも箱根の山を越えるのは容易でないのに人を乗せた駕籠を一人で担い
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すでに時計は三時を廻っていて、冬の箱根山は薄蒼い黄昏のような空気だった。方向さえ間違えずに歩いていればどんなに
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行軍の疲労の底にあって、この眼で見た、函谷関の険を彷彿と思い浮べていた。それこそ下を見れば眼の廻るよう
ねばならぬと、「箱根の山は天下の険、函谷関もものならず」、「ハコネノヤマハエンカノケン カンゴクカンモモノナラジュ」と親子二人、歌い喚きながら、人一人
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から朝鮮京城の西小門というゴミゴミした町に育ち、東京に来てやっと一年、それも世田谷の北沢と言う、ありきたりの郊外の