斗南先生 / 中島敦
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その年の二月、高等学校の記念祭の頃、本郷の彼の下宿へ、伯父から葉書が来た。利根川べりの田舎からであっ
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吾レ死スルノ後、速ヤカニ火化ヲ行ヒ骨灰ヲ太平洋ニ散ゼヨ。マサニ鬼雄トナツテ、異日兵ヲ以テ吾ガ国ニ臨ムモノアラバ
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は葉書で、簡単に、山では病が養えないから大阪へ――大阪には彼の従姉が(伯父からいえば姪だが)い
簡単に、山では病が養えないから大阪へ――大阪には彼の従姉が(伯父からいえば姪だが)いた――行き
たいのだが、今では身体がほとんど利かないから、大阪まで送ってもらいたい、老人の最後の頼みだと思って、是非すぐに大山
、彼は全く当惑した。一体、そのような病人を大阪まで運んでいいものかどうか。それに、どうしてまあ、伯父は大阪
ものかどうか。それに、どうしてまあ、伯父は大阪へなど行く気になったものか。なるほどその大阪の従姉は子供の時から
伯父は大阪へなど行く気になったものか。なるほどその大阪の従姉は子供の時から伯父には色々と世話になったのであるし
あわてたのである。が、それにしても、とにかく大阪まで行かせることは何としてもいけないと思った。病気を養うの
いけないと思った。病気を養うのならば、何も大阪まで行かなくとも、自分の弟が――三造にとってはやはりこれも伯父
て帰って来た。どうしても(理窟なしに)大阪へ行くと言ってきかないのだそうである。もう、ああ言い出しては
仕方がないから、と言って、洗足の伯父は彼に大阪行の旅費を与えた。
であろう)それで時間を繰りながら、「今、立てば大阪は明日の十時になる」といった。ところが三造が見ると、どう
いい出さないのである。車に揺られて、ゴミゴミした大阪の街中を通りながら、またこの車賃も払わせられるのかと、彼は観念
に送られて東京へ帰って来た。何のために大阪へ行ったのか、訳が分らない位であった。恐らく伯父も既に死
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ははあ、来いとゆたとて行かりょか佐渡へだな、と思った。題を見ると、戯翻竹枝とある。
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、大阪駅から乗ったタクシイの中で――従姉の家は八尾にあった――三造はそっと自分の蟇口をのぞいて見た。前日の夕方
ことを思い出さないのは変だと思った。車はやがて八尾の町にはいって、しばらくすると、伯父は、そこで車を停めさせて
二日ほど、その友人の下宿に泊って遊んでから、八尾の従姉の家に帰ると、玄関へ出て来た従姉が小声で彼に
二週間ほどして、伯父は八尾の姪の夫に送られて東京へ帰って来た。何のために大阪
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なって、すぐに、ひとりで京都へ遊びに出かけた。京都には、この春、京都大学にはいった高等学校の友人がいた。二日
ほっと荷を下した気になって、すぐに、ひとりで京都へ遊びに出かけた。京都には、この春、京都大学にはいった高等学校の
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にその研究の結果を世に問おうとするでもなく、東京の真中にいながら、髪を牛若丸のように結い、二尺近くも
を、いきなり狭い四畳半で拡げて見て、なるほど、東京は近頃物が安いと言った。
分らない」などと言った。その晩、三造は早々に東京へ帰った。
あろう。そうして同じ死ぬならば、やはり自分の生れた東京で死にたかったのであろう。三造が電話でしらせを受取ってすぐに高樹町
ほどして、伯父は八尾の姪の夫に送られて東京へ帰って来た。何のために大阪へ行ったのか、訳が
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赤十字病院の病室には、洗足の伯父と渋谷の伯父(これは、例のお髯の伯父と洗足の伯父の間の
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と「はしぜん」だという。親戚の一人が急いで新橋まで行って買って来た。が、ほんの小指の先ほど喰べると、もう