伊勢 山の手 印旛沼 関西 大阪 松島 手賀沼 スコットランド 仙台 静岡 お茶の水 虎ノ門 渋谷

「あたしの実家はね、伊勢の古市にあるのよ、そら、芝居でする吉原の百人斬り、なんと

「伊勢の古市に実家があるという話、相さんも聞いたでしょう」

さてその日の午前十時ごろ、土川春彦は山の手にゆき、中級住宅街のバス・ストップの脇で荷をひらいた。――彼

は構わず続けた、「この魚には見覚えがある、印旛沼か手賀沼だな、こいつも飼った鮒だ、近ごろは百姓もしゃれたまねを

ごたくをぬかして、へ、うちの庭の池だって、印旛沼か手賀沼か、へ、ああいうのが三百代言かなんかやるんだな、

「関西のなんとかっていう大資本家の先祖は」と彼は両手を擦り合せながらつぶやい

家出をした兄が帰って来た。父が仕事で大阪へでかけた夜のことで、そのことを慥かめて来たらしい。固太りに肥え

しまった。――そのまえ、彼は学童疎開で仙台の松島へいっていた。期間は二年くらいだったろう、家へ帰ったのは

ず続けた、「この魚には見覚えがある、印旛沼か手賀沼だな、こいつも飼った鮒だ、近ごろは百姓もしゃれたまねをするよう

ぬかして、へ、うちの庭の池だって、印旛沼か手賀沼か、へ、ああいうのが三百代言かなんかやるんだな、きっと、

ぶりで云うのだ、「洋館のほうはさ、おれはスコットランドふうにしたいんだがね、こう、――」と彼は手でなに

がね」と父親は小屋の中の子供に話しかける、「スコットランドふうにするというアイディアは考え直すことにしたよ」

なってしまった。――そのまえ、彼は学童疎開で仙台の松島へいっていた。期間は二年くらいだったろう、家へ帰っ

辰弥が眼をさましたとき、兄はもういなかった。静岡のどこかに勤めているので、すぐに帰らなければならなかったの

に人権問題をぜんめつするみちはないじゃないの、あたしがお茶の水の女学校にいたときは」

た学校を、或るときは虎ノ門だと云い、或るときはお茶の水だと云い、また津田英学だと云った。原則的に故郷である伊勢古市

女学校に関する限り死語になっていた筈であるし、お茶の水は師範系であって、女学校ではなかったと思うのであるが、

虎ノ門にあったのでそういう通称があったこと、またお茶の水は師範学校であったこと、などがわかった。津田塾のほうは光子の使う

光子は自分のかよった学校を、或るときは虎ノ門だと云い、或るときはお茶の水だと云い、また津田英学だと云った

までであり、その後は渋谷かどこかへ移転し、しぜん虎ノ門なる名称は、女学校に関する限り死語になっていた筈であるし、

虎ノ門女学校が高名だったのは相当に古いことで、さよう、筆者の記憶

学校というのはべつに校名があり、校舎が芝の虎ノ門にあったのでそういう通称があったこと、またお茶の水は師範学校であっ

ときは、夜間大学の図書館でしらべてみた。すると虎ノ門女学校というのはべつに校名があり、校舎が芝の虎ノ門にあっ

がなければ、大正十二年の大震災までであり、その後は渋谷かどこかへ移転し、しぜん虎ノ門なる名称は、女学校に関する限り死語に