小石川 江戸 目白台 隅田川

を押してお訪ねしたのである。大人はそのとき小石川の目白台という処に閑居をたのしんでいらしった。高台のそのおすまいは

はうけながらまだいちどもお眼にかかっていない。江戸を去ってはもうその折もあるまいと思われ、かなり躊う心を押し

四月の末に江戸を立った一家は五月中旬に御城下へ着いた。生れてから十八年

日ほどして着いた荷を解くじぶんから、はじめて私は江戸を去って来てしまったという悲しいやるせない気持を感じだした。家の

幾たびも泣いた。見るもの聞くもの、なにもかも江戸とはまるで違う。空の色も鮮やかすぎるし、吹く風も暴あらしく思え

が硬ばるように覚えてすぐには返辞ができなかった。江戸にいた頃に幾つか縁談もあったが、自分のみめかたちのよくない

年、私はもう二十という歳になっていた。江戸ではそんなことも眼立たないが国許の古い習俗からすれば婚期に遅れた

たので、秋のかかりにはお供に加わって良人も江戸へ立った。子供たちとじかに心を向きあわせたのはそれからである。

てお訪ねしたのである。大人はそのとき小石川の目白台という処に閑居をたのしんでいらしった。高台のそのおすまいは、松林

色も鮮やかすぎるし、吹く風も暴あらしく思えた。隅田川の眠たげな水を見た眼には、五月雨に水嵩の増した信濃川