大音寺 本所 入谷 浅草寺 奥州 荏原 伝通院 金杉 谷中 長崎 下谷 浅草 浅草橋

だけさきに帰った。外はようやく白みかけた時刻で、大音寺の前まで来ると、雨がぱらついて来、彼は裾を端折って、小走り

ようで、親の云うままにその男と夫婦になり、本所のほうで世帯をもった。

ひきつけられたらしい。それからむりに呼びだして、幾たびか入谷の田圃で逢った。むりではあったが、おなかは拒まなかった。その

佐八はそれから精いっぱい稼いだ。月にいちど、入谷の田圃でおなかと逢った。おなかの家は浅草山谷にあり、毎月いちど

いた。二年経って二十八の年の夏、佐八は浅草寺の境内でおなかと出会った。四万六千日の日で、境内は参詣の人たち

生活も、それなりにおちついて来たと思ったとき、浅草寺で佐八と出会った。

の輻を作る職人だったが、早く亡くなった両親は、奥州のどこやらの出だと聞いただけで、彼は十五の年にみなし児

金杉の店が焼け、親方夫婦は荏原のほうの田舎へひっこんだ。佐八は友達の家に寝泊りをして、半月

伝通院の前をさがった中富坂に「むじな長屋」と呼ばれる一画があり、そこ

彼はもと下谷の金杉に住んでいた。親方の家に住込みで、やはり車の輻を作る職人

春の雨だとたかをくくっていたが、金杉の通りへ出ると降りが強くなり、やがてどしゃ降りになった。佐八はままよ

で、下谷一帯から浅草橋まで焼けたものですが、私が金杉の店から駆けつけてみると、うちのあたりはいちめんの火で、近よることも

なかった。そのうちに休みの日ができて、二人は谷中の天王寺でおちあい、佐八は自分の気持をうちあけた。

十九ちぐさが十四のときに婚約ができ、やがて、登は長崎へ遊学することになった。そのときちぐさは十八になっていた。

「長崎へ立つまえに結婚したいと、ちぐさという人は云ったそうだ」

た、「――もしそこに気がついていたら、長崎へゆくまえに結婚していたろうし、事情はすっかり変っていたに

彼はもと下谷の金杉に住んでいた。親方の家に住込みで、やはり車の輻

云って、ようやく承知をさせたのである。二人は下谷の山崎町に家を持ち、佐八は親方の店へ働きにかよった。そう

た、「――あれは二月末の昼火事で、下谷一帯から浅草橋まで焼けたものですが、私が金杉の店から駆けつけてみる

ど、入谷の田圃でおなかと逢った。おなかの家は浅草山谷にあり、毎月いちど、暇が出て父のみまいにいく、その

いた。二年経って二十八の年の夏、佐八は浅草寺の境内でおなかと出会った。四万六千日の日で、境内は参詣の

生活も、それなりにおちついて来たと思ったとき、浅草寺で佐八と出会った。

――あれは二月末の昼火事で、下谷一帯から浅草橋まで焼けたものですが、私が金杉の店から駆けつけてみると、うち