はたし状 / 山本周五郎
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、そのまま隅田川の河畔で茫然と時を過したり、本所とか深川あたりを目的もなく歩きまわったり、また猿若町の芝居小屋の片隅で
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今泉第二は藩主の参覲の供に加わって、初めて江戸へゆくことになったとき、和田軍兵衛の長女しのを嫁に欲しいと親たち
和田へも母がいった。江戸へ立つ日が迫っているので、正式の儀礼はあとのことにし、
心配でしょう」などと母に冗談をいった、「――江戸は誘惑が多いですからね、たいへんな道楽者になって帰るかもしれません
江戸へ着いたのが三月、それから僅か半年しか経たない九月に、しの
藩主の帰国のとき、昌平黌に学ぶことを願って、江戸に残った。父はこちらの傷心を察したのだろう、あのとき以来なにも
、あのとき以来なにもいってよこさなかったが、彼が江戸に残ることに定ると、母からは頻りに手紙が来た。もちろん和田の
のあやを綴って。……そして年があけると、つまり江戸へ来て三年目であるが、その文章がしだいに崩れて、
第二は江戸にまる三年余いたわけであるが、この期間に彼の性格はかなり
第二は独りでよく江戸の市中を歩いた。学問所へゆくつもりで邸を出て、そのまま隅田
やりかたが悪辣すぎるということを。信じられないような江戸での醜聞。情事。重役にとりいった役替え。帰藩してからの怠慢、常
「――こちらが済むと江戸へ戻らなければなりませんし、ことによると、そのまま江戸に留ること
戻らなければなりませんし、ことによると、そのまま江戸に留ることになるかもしれませんから」
は、――どういう連想作用かわからないが、――ふと江戸で貰った彼の第一信の、書きだしの文句を思いだした。
、訴えるかのようなその音には記憶があった。江戸で、隅田川の岸で、彼は同じような時刻に、独りでじっと川波を
「あなたが江戸へお立ちになった夏のことですの、妹と二人で庭へ夕涼みに
にゆきました、自殺しようかと思ったのですけれど、江戸にいらっしゃるあなたのことを考えると、どうしても死ぬ気にはなれなかった
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隅田川の河畔で茫然と時を過したり、本所とか深川あたりを目的もなく歩きまわったり、また猿若町の芝居小屋の片隅で、じっと
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じっと川波を眺め、岸を洗う水の音を聞いた。向島の堤の下で……本所の百本杭で……。
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歩いた。学問所へゆくつもりで邸を出て、そのまま隅田川の河畔で茫然と時を過したり、本所とか深川あたりを目的もなく
のようなその音には記憶があった。江戸で、隅田川の岸で、彼は同じような時刻に、独りでじっと川波を眺め、