菊屋敷 / 山本周五郎
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が終るとすぐ小松が云った、「……園部がこんど伊勢の藤堂家へお召抱えになりましたの、それも江戸詰めで、まっすぐ下ら
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の、それも小花の黄菊だけであるが、父は「河内」となづけてひじょうに愛していた。河内とは楠公を偲ぶこころを託し
父は「河内」となづけてひじょうに愛していた。河内とは楠公を偲ぶこころを託したものであろうか、訊ねたことはないが
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たかも知れませんわ、ちょうど主人が学堂の御用で江戸へ出たりしてごたごたしていましたから、……ああそうそうそれに就いて
か。そう思案していたとき、たまたま学堂の用で江戸へ出た晋吾は、そこで蘭学というものが学界で珍重されはじめて
て、手紙の文字を読み継いだ。――今年の夏は江戸に悪い時疫がはやり、できるだけ注意したがついに健二郎も冒され、僅か七日
「江戸から昨日お使があったのはあなたも知っていますね」志保はやや
になる、しかし自分で自分に鞭打つような気持で、「江戸の母が呼んでいる」と告げた。できるだけ感情を混えないように、少し
「……そういうわけで、江戸にいる本当の母があなたに帰って欲しいと願っています、わたしにすれ
どう答えるだろう。志保は眼まいのしそうな気持だった、江戸へ帰ると云うか、それともここにいると云うか、ああ。
「晋太郎は江戸へまいります」
「江戸へゆくほうがよいと思います」
な武士になれませんから、……ですから、晋太郎は江戸へまいります」
が人にすぐれた武士になって下されば満足です、ただ江戸へいったら、いまの気持を崩さないように、しっかりと心をひきしめて勉強
、この家で成長し、この家から出ていった、江戸へ送られたという門人たちの道も、小松の許へ去った晋太郎の
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、「姉上さまなら理解して下さるでしょう。わたくしたちは長崎へゆくつもりなんです。期間はだいたい三年ときめておりますけれど、
」小松はじっと姉の眼に見いった、「……長崎へまいればわたくしはその日から生活の手仕事を始めるつもりですの。それに
、そうして頂ければ気持もずっと楽ですし、こころ残りなく長崎へもまいれますわ、ねえ姉上さま、ご迷惑でなかったらそうきめて
「それはようございましたこと、では長崎でのご修学が実をむすんだのでございますね」
に勝っていなければ承知できないほうだった。晋吾を長崎に遊学させ、二百石という出世をさせたのは、おそらくその
子供の顔を覗くようにして云った、「……長崎からなんのお土産もなかった代りに、着物とお袴を調えてあげましょう
なしに小松の話しごえが続いた。往復の旅のこと、長崎の生活、異様な風俗や言葉、そして山河の景色など、次ぎから次ぎへ
園部夫妻が長崎からの帰りにたち寄った、その明くる年の二月のことである。珍らしく※