東京 千住 銀座

一昔前縁日の本屋などが並べているのを見受けた、東京ではいまはまったく見られなくなったと云っていい、通俗の本で

担当は云った。「貴公、よっぽどでれ助だな。」「東京でよく電車や自動車に轢かれなかったな。」私は弱く笑うばかりだっ

でまだあと二年の月日を剰していた。彼も東京にいたのだった。鳶職であった。しかし足場から墜ちたことが

越えた、でっぷりふとった人で、いい人だった。やはり東京の人だった。磊落な人だった。こんなところへきていても

千住の橋を渡ったところに、鉄兜ほどの大きさの饅頭を売っている店

しては、「五〇番、出たら遊びに来給え。銀座のモナミを御馳走しよう。」こう云ってくれた。