遠野へ / 水野葉舟
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から東の方に向って、この花巻を発つ。目的地の遠野に着くには、今夜、夜が少し更けてからだそうだ。」――
ながら、右の文句をはがきに書いた。私はこんどその遠野に帰っている友人に会うために、東京を出て来たのである。
「遠野までです。」私は待っていたように答えた。老人は歩きながら、
数日前まで盛岡で興行していた、某一座を遠野に連れてくることになった談判の模様らしい。
ついてしきりと話し合っていたが、しまいに老人が「遠野のものは一体に芝居好きだもの……」と言った。この言葉が私に
雪の盛んに降る中に宮守を発った。これから遠野まで五里半ある。
と心を襲った。ここからは私達の車の方に遠野の中学の生徒だと言う学生服を着た青年が一人乗った。
「ハア、遠野が?」不思議そうにしているので、私は単純に遊びに来た
て来たから聞くと、盛岡の孤児院の人で、こんど遠野で慈善音楽会をするのだと言った。
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高調子の男の語調はかつて伊勢から来ていた友人とそっくりだ。
「僕も長く東京にいた。」と伊勢の男は自慢らしく言った。
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ほかの一枚にも同じ文句を書いて、来る路に仙台で世話になった家に宛てた。
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まま黙って地図を見ていた。この「磐井」「盛岡」の地図の表は山の記号で埋まっている。この山と山の
それは芝居の話だ。数日前まで盛岡で興行していた、某一座を遠野に連れてくることになった
「これじゃ、盛岡からの役者も明日はどうかな。」と老人の顔を見て、
男とのあいだにこんどくる歌舞伎芝居の噂がはじまった。盛岡での人気や、役者の技量などについてしきりと話し合っていたが
下女がはいって来たから聞くと、盛岡の孤児院の人で、こんど遠野で慈善音楽会をするのだと言った。
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私はこんどその遠野に帰っている友人に会うために、東京を出て来たのである。
くるのを覚えた。と、美わしい顔色をした東京の女が懐かしく目に浮ぶ。華やかな笑い声も、もう久しく聞かぬような
だ、陰鬱な町だろうか……と思った。東京にいては私はこの寒い国がこれほど、親しみにくいとは思って
、ギロッとした目に言われぬ愛敬がある。そして東京では豆腐屋の持っているような貝の形をしたブリキのラッパ
「ああ、つい釣り込まれちゃった。東京に行きたい。ねえ!」と言って私の肩を打った。
「東京は夜でも明るいやね。それにあの華々しい女の声が聞きたい。
―ことを話し出した。一人の男は信州で生まれて東京で育ったといっていた。
「僕も長く東京にいた。」と伊勢の男は自慢らしく言った。