日記 09 一九二三年(大正十二年) / 宮本百合子

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横浜

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横浜を過ぎると、その婦人の涙も止った。何よりのことだ。

日(水曜)晴〔予記〕Mr. & Mrs. Perrce を横浜へ送ること。夜、帝劇を見ること。(玄文社の用)

横浜に行くのはやめ。A一人でゆく。彼のすることは何でも、

昨夜、横浜でケーブル氏が死去された報道を新聞で見た。

東京、横浜、房総の大震災。

四人の彼女等の所謂ヤング maid が集って居る。丁度横浜に居て、家はつぶれたが、髪の末も梁に触らなかったと

横浜、鎌倉は上下動であった。そのとき、Miss Wells が話したが、房州と

所謂流言蜚言は、横浜の山口正憲と云う壮士が云い始めた由。されど、その流言を信じるあれだけ

軽井沢

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愕きに打れ、新聞を見、彼が六月下旬に軽井沢の別荘に或婦人と行き、死んで居たのをつい昨日になって発見

小石川

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三日に上野の山に火がついた時には、小石川まで逃げた由。公園に蚊帳をつり、二人の子供が膝に突ぷし

安積

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林町の母上スエ子、安積から帰京。

玉川

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。此前の日曜か土曜、私共は三人で、玉川に出かけた。その日も雨が今にも降りそうに見え、私は鎌倉

二重橋

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へ来たかえりによる。又電車がなくなり三橋から歩く。二重橋前をぬけて。

大阪

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堺氏、大阪で捕った時のことを一寸話す。心持のよい老人と云う感じがある。

がつづいたので、おそろし。まして祖母アサカに、父上大阪に行くと云うので不安なり。

房総

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東京、横浜、房総の大震災。

江戸

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あと本を見、夕、Miss Wells のところ、夜、「江戸から東京へ」。を一寸よむ。なかなか面白い。話のたねになる。林町の

神楽坂

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と二人はあちこちの大工。夜、一夫来。三人で神楽坂にゆく。私は留守番。

鎌倉

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前から、東京には珍らしい大雪があった。九日に鎌倉に来ようと云う自分には、少なからぬ事の行違いを生ぜさせるのではある

丁度泊りがけで鎌倉に行って居た国男も戻り、屡※噂にきく山田氏ツーさん等も

で、学校はどうでもよい? と云い、国男さん鎌倉へ送って来て呉れると云う。独りよりは数倍よし。

鎌倉には、十二時一寸前に着。当にして居た倉知の川島と

すっかり、自分の感興はスポイルされた。それ以来、鎌倉に行ったら、鎌倉に行ったら、と、真の日が自分に来るのを

感興はスポイルされた。それ以来、鎌倉に行ったら、鎌倉に行ったら、と、真の日が自分に来るのを待ち切って居た

その日も雨が今にも降りそうに見え、私は鎌倉に雨合羽も置いてあるから止めましょう、と云ったのに、Aはガン張り

十二日の土曜日、昼頃の汽車で鎌倉に出かけた。二月に借りた家が十五日迄の家賃を払ってある

国男さんは、ずっと鎌倉に居るらしい。

鎌倉へ行こうとする時、自分は、丁度、豊島さんの「野晒し」をよんで

四月十九日。鎌倉から帰って僅か十五日位にしかならない。もう自分には、苦しさが

の衣類をやる。自分がまだ眼をさまさなかったうち、鎌倉へ自転車で模様を見に行った小南の兄、叔母、季夫の始末の模様

横浜、鎌倉は上下動であった。そのとき、Miss Wells が話したが、房州と、大島

ローマ

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方面に著しく頭は動かない。セサニアン朝の彫刻が、ひどくローマの風を模し、彫像の衣服の有様から、目鼻立ち、髪にリボンのつい

四谷

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国男さんも林町へかえると云うので、濡れそぼけて四谷から青山を素通りして林町に戻った。

本郷

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。三橋へ出ず、須田町、お茶の水、順天堂わきを通って本郷に入る。本石町辺では焼け切れた電線がたれ下り、うっかりすると引かかる。ペーブメント

北海道

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あるまいかと危ぶまれた。七日に、戸外では北海道のようだと云う程降雪のある畳廊下で荷作りをして居ると、母

方へ、お清さんを訪ねた。前晩引越しをし、北海道の良人の郷里訪問から帰ったばかりで三日ねむらないと云う。その故か

パリ

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パリで自動車衝突の為死去された北白川宮成久王の御葬儀の為、A学校

丸善

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午後、丸善に行く。空には雲が出、危い天候に見える。始め、自分は躊躇

午後から丸善にゆき、エジプトの話、物語(パピリから訳した。)集を買って来

建仁寺

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の出窓に面したところにすぐ垣があるが、木塀や建仁寺でなく、やはり薄黄色くポカポカした竹の、或は笹の垣なので、

青山

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新らしい丈居心地はよさそうだ。青山の変に赤黄色い唐紙とは違い、西に向って一間の出窓と、南

達の食事をし、五時すぎ林町を出、二人で青山に帰る。白山の坂を降るともう模様はがらりとかわり、指ヶ谷、餌差町、

青山では五日頃から野菜もあるので、基ちゃんに、青菜一束、

も林町へかえると云うので、濡れそぼけて四谷から青山を素通りして林町に戻った。

青山へかえる。途中停電し、九段下で一時間以上待った。

クリスマス day 朝Aと二人で青山の三越にゆき彼のマント代として何とか云う人にあげる商品券と

夜、皆で青山の通りを散歩し、佐藤氏の『都会の憂鬱』、光太郎訳ベルハーラン、春夫

両国

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ずっと右を廻って九段上からずっと下町を見渡したら、両国の国技館のドームの骨が、きなくさい霞の間に見えた。ポツポツやけのこり

青山墓地

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て迎えに来てくれたがことわる。母上、英男と青山墓地へ来たとて、石屋の角で車をとめ英男に兄の在、

神戸

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神戸行の列車なので、転任か何か、多勢見送り人の群って居る

皆は其那こととはまるで知らず、神戸に出迎えたのだそうだ。いくら待っても父の姿が見えない。

日なり、野上さんのところから、清子さんが二十二日、神戸着と知らせて来た。

京都

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京都の何とか云う人の細君で、美しく、小肥りに肥え、片手を柱

奈良

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金、碧、深紅の大胆な配色法。支那、日本の奈良朝時代、皆共通の流れを持って居る。メトロポリタン美物館に父上や

千葉

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では三津木貞子氏と自分だけ。堺枯川、前田河広一郎、千葉亀雄、吉江孤雁、新居格氏その他。

『新家庭』千葉先生の印象

仙台

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食事などもひどく、ビールやサイダーは、仙台辺で出るフジビーアと云うのが出る。

〃 「おい、お前の国の産物だぜ。仙台だぜ」

福井

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福井に来る。

午後四時五十分福井出発

A、福井へ置いて来た荷物をとりかたがた米を貰いに、出かける。

からずっとこれにかかって居たようなものだ。夏じゅう福井で書いたところをよみなおして見ると、まるでなって居ず。表面的にまとめよう

だが一体にAほどせかつかず、みっしり、しんなり(福井方言)かまえて居るのでよろし。Aのように余裕なくせかせかするのが

金沢

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金沢で乗換え、信越線廻り、

。ほんの内輪ばかりと云っても百人近く集った。わざわざ金沢から来たと云う僧、禅宗にしては、いやになまぐさい感を与える

深川

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うれしかった。やがて基ちゃんも来る。市庁へ行ったら本所深川ではまだこんな設備も出来て居ない由。やはり日比谷図書館に送るしかない

東京

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二三日前から、東京には珍らしい大雪があった。九日に鎌倉に来ようと云う自分には

昼飯後、Tさん東京に行く。川島は荷物を運ぶに雪が深すぎるからと云って、明日

五十を一寸出た位。大柄なじじむさい、平顔の、東京弁を使う女だ。快活ではあるらしいが、ヘンペックで、相当慾張って

て居ることに、恥を感じずに居られるだろうか。東京中の銅像の中に一人でも大学者が居るか。幾年か後

たのは、此が始めてであった。私共が東京に住んでもう三年ほどになるが。

、夕、Miss Wells のところ、夜、「江戸から東京へ」。を一寸よむ。なかなか面白い。話のたねになる。林町の母

の気がねの多い沈滞した生活気分に堪えないのだ。東京のよい圏境が与えられれば、進取的なよい女性の一人であろうの

一夫今朝東京立つ。

東京、横浜、房総の大震災。

にきいたら、春江ちゃんも、やはり髪洗いをした由。東京中で此日は幾千人女が髪を洗ったかと微笑まれた

品川

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東京駅を出、品川辺で、乗込んで居た妹らしい若い婦人も別れを告げると、その細君

千駄ヶ谷

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や花屋、呉服店等がある。賑やかな町並は、一寸、千駄ヶ谷辺の大通りと云った感じ。都会風と、田舎の素朴さが、どこ

上野

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さんのところへ行ったのは十一時すぎて居た。上野行で須田町で乗かえるのが一番速いらしい。いろいろ仕事の話、あとで

氏は子供をつれ、渡辺町の公園に逃げ、三日に上野の山に火がついた時には、小石川まで逃げた由。公園に

れたので、ほっといきをつき、娘と二人で先ず上野ににげたのだそうだ。娘のりんも家中やけ出され。今夫

大宮

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切符は大宮迄、川口の鉄橋が落ち、多分徒歩連絡だろうと云うこと。

日暮里

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日暮里で降りようかどうしようか。灯がなくて不安だろう。その他興亢し

神田

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が二日に事務所に行かれた時の話、死体が神田辺の通にまでころがって居たとのこと。たまらず。

だ。神保町までにいやな人のこげた臭いがする。神田の古本屋、一握の灰燼、爼橋通れぬ為、ずっと右を廻って九段

朝、島氏来、神田の工場、家全焼、少し神経質に見えた。

日本橋

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お雪、日本橋の務めさきをやき出されて来、米をくれと云う。こちらもない

居られる。ライトの帝国ホテルが倒れなかったのは不思議又、日本橋のある妙な形の建築も。吉川氏、歩いて研究。

神保町

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ない心持になった。まるで、郊外の坂路のようだ。神保町までにいやな人のこげた臭いがする。神田の古本屋、一握の灰燼

お茶の水

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ず。水道橋に出て、右へ麹町の方、左へお茶の水の方を眺め、涙も出ない心持になった。まるで、郊外の坂路

のでとうてい間に会わず。三橋へ出ず、須田町、お茶の水、順天堂わきを通って本郷に入る。本石町辺では焼け切れた電線がたれ下り

居るときは、何とも云えず凄く、寥しかった。お茶の水は、本校正面の柱列が少しのこって居るばかり。all gone だ。

麹町

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が何処やら見当もつかず。水道橋に出て、右へ麹町の方、左へお茶の水の方を眺め、涙も出ない心持になった

水道橋

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。春日町、壹岐坂辺、何処が何処やら見当もつかず。水道橋に出て、右へ麹町の方、左へお茶の水の方を眺め、涙

浅草

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A、藤沢の安否をたずねに浅草にゆき青くなるほど疲れてかえる。無事であった。溝などに死人が

A、さいの弟の立のきさきをたずねに又浅草に行く。次手に寺田氏の焼跡も見る。

A、一日外出。Aの兄、浅草の藤沢にゆく。十二時少し前英男来る。久しぶりでうれしく、うちでこしらえ

赤羽

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弟は赤羽に居る由、

さい、弟が赤羽から千住へ行って居ると云うので、たずねに出かける。

日比谷

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で動坂まであると云う。早い交通機関の恢復をおどろく。日比谷辺まるで何処だかわからず。事務所によって見ると、彼方此方の建築敷地

日比谷から歩いたので八時近く林町着。

本所深川ではまだこんな設備も出来て居ない由。やはり日比谷図書館に送るしかないか。二人夕方かえる。夜、A啓明会とプライヴェートの

千住

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さい、弟が赤羽から千住へ行って居ると云うので、たずねに出かける。

九段下

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青山へかえる。途中停電し、九段下で一時間以上待った。

京橋

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そこで出かけたはよいが、電車を間違え、京橋で、ぐるっと左へ廻られて仕舞ったには困った。Aが、