写生断片 / 長塚節
地名一覧
筑波山
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對岸の松林が連つて見える。更に其上には筑波山が一脚を張つて他の一脚を上流まで延ばして聳えて居る。小春の
は只長閑なさまである。日は稍傾いた。忽然筑波山の絶頂から眩ゆい光がきら/\と射して來た。毎日同一の時刻に
へ強く射し掛けて來るのである。百姓の或者は筑波山で火を燃やすのだらう抔といつてをる。然しそれは觀測所の
茶の木の花は白々と光を帶びて居る。筑波山は見る/\濃い紫に染まつて來た。秋の末の晩稻を刈る
の末の晩稻を刈る頃から、夕日の射し加減で筑波山は形容し難い美しい紫を染め出す。百姓に聞いて見れば嘗てそんな筑波山は知らぬ
し難い美しい紫を染め出す。百姓に聞いて見れば嘗てそんな筑波山は知らぬといふ。知らぬといふのは尤ものことである。日が落ちて