市街を散歩する人の心持 / 木下杢太郎
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自分は今心が惑ふ。九月の朝の日比谷公園の印象を語らうか。或はそこの八月の夜を描き出さうか。或は
ああ自分はどうかして、せめてはかの日比谷公園の九月下旬の曇つた朝の枯草の匂ひを形容して見たい。
に勤倹尚武を鼓吹しながら、同時また恁んな近代的情調を日比谷公園裏に蔵して居るといふ矛盾を笑はずには居られなかつた。
自分は八月の或夜日比谷公園を歩るいて、恁う云ふ光景に出遇つた事を覚えてゐる。
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から……自分はぶらぶらと京橋まで歩いて来た。「金沢」といふ寄席の隣の、何とかいふ小さいしる粉屋でしる粉をのん
夜が寒い。月は見えなくなつて暗かつた。唯金沢の二階は、ばつと明るく、灯の光が一面の障子を照らして
ば屹度どこかの寄席の近くへ往くんださうだ。金沢はすぐ高座の下が往来だから、よくそこでその地びたの上に
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も春雨頃の、沈んだ三味線の音のやうに淡く寂しい深川の河岸の情緒を語らうか。
手がらをかけてゐる。昔の芝居によく出たやうな深川の質屋も、材木屋も、石材問屋も、醤油屋の低く長い蔵の壁
嘗つて自分が永井氏の「深川の唄」を読んだ時、このさとの哀れ深い生活が氏の豊麗な
ある午後、自分は云ひ難き憂愁に襲はれて、独り寂しく深川の小溝の縁に立つた。不動様の裏手に当つて居る所で
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かうみ、ぶらぶら歩るくほど楽しみなものはない。たとへば神田の五軒町あたりは、広い道の両側に柳の並木、日にきらめける鉄条
如く浮び出てゐるニコライの銀灰の壁が目に入る……神田の古風な大時計がぢん、ぢん……と四時を
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東京の市街を、土曜日の午後あたり、明日は日曜だといふ安心で、と
興味があるかどうだかは知らない。併し自分には東京の景物ほど心を引くものはない。それも単に視覚と、聴覚と、
かう云ふ粗い対照なら東京の市街にいくらでも転つてゐる。現に此、銀座街頭の散策の
な不可思議な感じは抱かなかつたらう。併し自分は今東京を歩るいて居るのだ。河岸縁には鍋焼饂飩がぱたぱたやつてるで
その時聞いた話があるが、この老爺はもと東京の士族で、さらぬだに零落しやすかつた維新後の士族の中に
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と、或は空気の圧迫に感ずる触覚と、偶は又、日本橋、殊に本町、大伝馬町にきく酢酸、塩素瓦斯、ヨオドフオルム乃至漢法方剤の怪しい
もと自分が日本橋の裏通りの居酒屋へは入つた事があつたが、その時、親子づれの
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の夜を描き出さうか。或は更に興味ある秋の夜の銀座裏町の生活を語らうか。それとも春雨頃の、沈んだ三味線の音
数寄屋橋を渡つて銀座の通りに出ると、そこはもう夏の夜の、涌くが如き歓楽の
自分は銀座の通りの雑踏を思ふごとに、その横町で或秋の夜偶然出遇
東京の市街にいくらでも転つてゐる。現に此、銀座街頭の散策の間にも自分は出遇つたのであつた。そこは
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それから……自分はぶらぶらと京橋まで歩いて来た。「金沢」といふ寄席の隣の、何とか
……それから、自分はぢき歩きだした。京橋の通りに出ても、実際だつたのか、それとも耳鳴りだつた