箪笥町 軽井沢 赤坂 東京 氷川台 日本橋 神田 上野 麹町

庭の林檎を思ひ出す。その麻布谷町といふところは今の箪笥町の近辺である、今でもその名の町はあるのだらうが、片側

いやいやながら歩いて、今の黒田家の前あたりを通り、箪笥町から谷町をまがつて鹿島といふ大きな酒屋の前から右へだらだら坂を上がり

軽井沢の家でＹ夫人から教へて頂いた豚肉のおそうざい料理はさぞおいしいだらう

が険しい雲ゆきになつた年であつた、しかし私たちはまだ軽井沢に避暑に行くだけの心の余裕をもつてゐた。）それはＹ家

軽井沢の家では夏じうよいお菓子を備へて置くことも出来なかつたから

となつたやうに聞いてゐる。さて私のおもひでは軽井沢の豚料理や桃の砂糖漬から飛んで麻布の仕立屋にゆき、仕立屋のうしろ

で、それから麹町の方に向いた表門ではなく、赤坂に向いた裏門からのぼつて行つた。古びた丸木の段々の山みちを

をみせてくれた。その目鏡で私たちは向うの世界の赤坂や麻布の家々の屋根とその上の青い空も、白い夏雲も覗くことが

その夏その料理を教へていただいて帰京してからの私たち東京人の生活はだんだん乏しくなつて、やがて一斤の肉さへ容易に手に

でもその名の町はあるのだらうが、片側に氷川台の高い崖地があり、向うは霊南坂から市兵衛町につづく高台で、その

仕立屋さんの背後の丘、つまり氷川台の方はすばらしく名家ぞろひの丘で、Ｎ男爵の一万坪以上も

である。Ａ中将は軍人ながら大変な金持で下町の神田日本橋辺にも沢山の土地を持つてゐるといふ噂であつた、もう疾く

ことである。Ａ中将は軍人ながら大変な金持で下町の神田日本橋辺にも沢山の土地を持つてゐるといふ噂であつた、もう

上の級であつたが、間もなくそこを止めて上野の音楽学校にかはつた。琴もピヤノもうまかつたが琴の方

貰つた。それもたのしい冒険の一つで、それから麹町の方に向いた表門ではなく、赤坂に向いた裏門からのぼつ

帰りには歩きやすい広い段々を下りて表門の麹町の方の小路から帰つて来て泥水のお池のところまでくる。渡し賃