広島 武蔵野市 西荻窪 神田

くるのだらうか。僕にはよくわからない。僕は広島の惨劇のなかでは、精神に何の異状もなかつたとおもふ。だ

とした空気が快く肺に沁みる。（さうだ、あの広島の廃墟の上にはじめて雪が降つた日も、僕はこんな風な空気

がその後、もう一度はつきりと肉眼で見せつけられた広島の地獄の前触れだつたのだらうか。）

〈一九五一年　武蔵野市〉

ここで遮断機が下りて、しばらく待たされるのだ。電車は西荻窪の方から現れたり、吉祥寺駅の方からやつて来る。電車が近づいて来る

。ある日も僕は一年前僕が住んでゐた神田の方へ出掛けて行く。すると見憶えのある書店街の雑沓が僕の