永遠のみどり / 原民喜
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、窓の外の眺めも、のんびりしてゐたが、尾道の海が見えて来ると、久振りに見る明るい緑の色にふと彼は
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そつと入れておいた。……ペンクラブの一行とは広島で落合ふことにして彼は一足さきに東京を出発した。
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戻つて来ないかと問合せの手紙が来てゐた。倉敷の妹からも、その途中彼に立寄つてくれと云つて来た。だ
は広島の兄に借金を申込むつもりにした。……倉敷の姪たちへの土産ものを買ひながら、彼はなんとなく心が弾んだ
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も変つてはゐなかつた。二年前、彼が広島の土地を売つて得た金が、まだほんの少し手許に残つて
も奪ひとつてしまはうとする怪物にむかつて、彼は広島の焼跡の地所を叩きつけて逃げたつもりだつた。これだけ怪物の口に
の会」に同行しないかと誘はれてゐた。広島の兄からは、間近かに迫つた甥の結婚式に戻つて来ないか
彼は作家のMから、こんど行はれる、日本ペンクラブの「広島の会」に同行しないかと誘はれてゐた。広島の兄から
姿が、今もしきりに懐かしかつた。さうだ、こんど広島へ行つたら、あの写真を借りてもどらう――さういふ突飛なおもひ
結婚式には間にあはなかつたが、こんどのペンクラブ「広島の会」には、どうしても出掛ようと思つた。……彼
これは二年前、彼が広島に行つたとき、何気なくノートに書きしるしておいたものである。郷愁が
ことだから、それまでの食ひつなぎのために、彼は広島の兄に借金を申込むつもりにした。……倉敷の姪たちへの
写真をそつと入れておいた。……ペンクラブの一行とは広島で落合ふことにして彼は一足さきに東京を出発した。
吉祥寺に移つてからは、逢ふ機会もなかつた。が、広島へ持つて行くカバンのなかに、彼はお嬢さんの写真をそつと入れて
を下した。そのピアノは昔、妹が女学生の頃、広島の家の座敷に据ゑてあつたものだ。彼はピアノの蓋を
であつた。……市役所・国秦寺・大阪銀行・広島城跡を見物して、バスは産業奨励館の側に停まつた。
れてゐた。彼は自分の名や作品が、まだ広島の人々にもよく知られてゐるとは思はなかつた。だが、
公民館の方へ、ぶらぶら歩いて行つた。Mは以前から広島のことに関心をもつてゐるらしかつたが、今度ここで何を感受
の会」に出かけて行つた。そこの二階で、広島ペンクラブと日本ペンクラブのテーブルスピーチは三時間あまり続いた。会が終つた頃
翌朝、彼は瓦斯ビルで行はれる「広島の会」に出かけて行つた。そこの二階で、広島ペンクラブと日本
食堂は食器と人でぎつしりと一杯だつた。「広島の夜も少し見よう。その前に平田屋町へ寄つてみよう」と、彼は
だ。そんな話をきいてゐると、彼はあの直後、広島の地面のところどころから、突き刺すやうに感覚を脅かしてゐた異臭をまた想ひ
の写真は、すぐに見つかつた。これが、広島へ来るまで彼の念頭にあつた、死んだ姉の面影だつた。彼
「雲雀なら広島でも囀つてゐますよ。ここの裏の方で啼いてゐました
そこここにも訪れてゐた。彼はしきりに少年時代の広島の五月をおもひふけつてゐた。
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の樹木の姿が、彼をかすかに慰めてゐた。吉祥寺の下宿へ移つてからは、人は稀れにしか訪ねて来なかつた
その知人と出逢つた。その足で、彼は一緒に吉祥寺の方の別の心あたりを探してもらつた。そこの部屋を借りること
騒々しい神田の一角から、吉祥寺の下宿の二階に移ると、彼は久振りに自分の書斎へ戻
た。彼はすぐ外に出て一緒に散歩した。吉祥寺に移つてからは、逢ふ機会もなかつた。が、広島へ持つて行く
彼をハツとさせた。だが、緑色の季節は吉祥寺のそこここにも訪れてゐた。彼はしきりに少年時代の広島の五
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達にそんな噂をされてゐた。それは彼が神田の出版屋の一室を立退くことになつてゐて、行先がまだ決まらず、
騒々しい神田の一角から、吉祥寺の下宿の二階に移ると、彼は久振りに
神田を引あげる前の晩、彼が部屋中を荷物で散らかしてゐると、
の許にも届いてゐた。ある雨ぐもりの夕方、神田へ出たついでに、彼は久振りでU嬢の家を訪ねてみ
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荻窪の知人の世話で借りれる約束になつてゐた部屋を、ある日、彼
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とは広島で落合ふことにして彼は一足さきに東京を出発した。
のとき、あなたの噂も出ましたよ。あれはもう東京で、ちやんといいひとがあるらしい、とみんなさう云つてゐました」
まだ刻明に目に残つてゐる。それから、彼が東京からはじめてこの新築の家へ訪ねた時も、その頃はまだ人家も疎ら
十日振りに帰つてみると、東京は雨だつた。フランスへ留学するEの送別会の案内状が彼の許に
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た。それは昔ながらの夜の川の感触だつた。京橋まで戻つて来ると、人通りの絶えた路の眼の前を、何か