四谷 丸の内 アルプス 世田ヶ谷町 神楽坂 牛込 大阪 鎌倉 富士見町 松陰神社 軽井沢 千駄木 豪徳寺 小石川 荒木町 赤坂 銚子 日比谷公園 井の頭公園 神戸 仙台 下谷 巴里 長崎 奈良 京都 青森 市ヶ谷 日比谷 銀座 上野 東京 神田 新宿 飯田橋 駒込 吉祥寺 新橋 浅草 麹町 日本橋 京橋

から歩いて来る春代という女に出逢った。帰り道が同じ四谷の方角なので、六十人いる朋輩の中では一番心安くなっている。

帰り途が同じ四谷の方角なので、君江と春代とは大抵毎晩連立って数寄屋橋あたりから円タク

している。唯さえ夜になれば人通りの絶がちな丸の内の道路は、この風とこの闇とに一際物寂しく、屹立する建物の間の

吹き去られて聞えなかった。村岡は咄嗟の間に、先刻丸の内を歩きながら清岡が言った事を思出し、何とも知れぬ恐怖を感じて

「そう。あなた、アルプスにいたの。ちっとも知らなかったわ。わたしはあれからずっとドンフワンにいるわ

「この春だったか、アルプスでお客様から聞いたことがあったわ。お逢いしたいと思ってもつい

府下世田ヶ谷町松陰神社の鳥居前で道路が丁字形に分れている。分れた路を一、二

ゆっくり飲干して静に下に置いた。君江は昨夜矢田と神楽坂へ泊った事は知られていないにしても、何しろ二年越しの

。この近辺はいけないのか。荒木町か、それとも牛込はどうだ。」と矢田は君江の手を握って動かない。

に夜の空がひろくなったように思われ、市ヶ谷から牛込の方まで、一目に見渡す堀の景色は、土手も樹木も一様に蒼く霧

「そうね。牛込の彼処はどう。諏訪町時分にあなたとも二、三度行った家さ。

から帰って来て、多年の蓄財を資本にして東京大阪神戸の三都にカッフェーを開き、まず今のところでは相応に利益を得

鶴子が離別されると間もなく父の家を去って鎌倉に新家庭をつくった。半年ほどたった時老父の熙は突然流行感冒で

進と鶴子との恋愛生活は鎌倉に家を借りていた間、わずか一年くらいのものであった。進

ず、幸女がその兄から金を貰ったのを聞いて鎌倉に家を借りて同棲したような次第であった。勿論人の妻と

た京子という女が、いよいよ小石川諏訪町の家をたたんで富士見町の芸者家に住込む事になったので、泣きの涙で別れ、独り

「京子は富士見町へ出てから、どうだね。あの女のことだから、きっといそがしいだろう。

た入梅の空は、まだなかなか暮れきらぬ七時頃。富士見町の待合野田家の門口へ自動車を乗りつけた三人連。一人は清岡の原稿

「今帰ったお北の家はどこだ。富士見町の方か。」と、清岡は何の訳もないような風できいて

はなし出したらいいものかと考えながら歩いて行く中、忽ち富士見町の電車停留場に来てしまった。そもそも清岡には最初から鶴子を正妻に迎える

今夜へかけてまず三日ほど逢わないのみならず、先刻富士見町で芸者から聞いたはなしも思い出されるがまま、とにかくそっと様子を窺って置くに

諏訪町の加藤というのは今富士見町に出ている京葉の事なので、君江はそこで知っているという

「そうか。富士見町に出ているそうじゃないか。噂はきいているけれど、このざまじゃア行っ

府下世田ヶ谷町松陰神社の鳥居前で道路が丁字形に分れている。分れた路を一、二町ほど

秋、前の夫が陸軍大学を出て西洋へ留学中、軽井沢のホテルで清岡進と道ならぬ恋に陥ったのである。先夫の家

を捧げている事ができなくなったのである。初め軽井沢の教会堂で人から紹介せられた時の進と、今は通俗小説の大家

帝国大学教授の職を免ぜられたので、これを機会に千駄木の家を人に貸して、以前から別荘にしてあった世田ヶ谷の廃屋に

立っている。路はその辺から阪になり、遥に豪徳寺裏手の杉林と竹藪とを田と畠との彼方に見渡す眺望。世田ヶ谷の町中

を見ると、いつもきまって、京子の囲われていた小石川の家へ同居した当時の事を憶い出す。京子と二人で、岸の灯

のに驚かされて、空想から覚めると、君江は牛込から小石川へかけて眼前に見渡す眺望が急に何というわけもなく懐しくなった。

不思議な晩だわ。あの時分の事を思い出して、ぼんやり小石川の方を眺めている最中、おじさんに逢うなんて、ほんとに不思議だわ。

「なるほど小石川の方がよく見えるな。」と川島も堀外の眺望に心づいて同じよう

たってしまうじゃないか。この近辺はいけないのか。荒木町か、それとも牛込はどうだ。」と矢田は君江の手を握って

「駒田君。これから、赤坂までつき合わないか。」

ほんとに皆さん、あがらないのね。」と年増が新しい銚子を受取って、「あなた。お一ツ。」

出ると、おもては五月はじめの晴れ渡った日かげに、日比谷公園から堀端一帯の青葉が一層色あざやかに輝き、電車を待つ人だまりの中から

通のような町の上に投り出してやりたい。日比谷公園の木の上に縛りつけて置くのも面白い。昔は不義の男女を罰する

が、離れるのがいやさにカッフェーもそれなり休んで、井の頭公園の旅館に行き次の夜は丸子園に明して三日の後、市ヶ谷

帰って来て、多年の蓄財を資本にして東京大阪神戸の三都にカッフェーを開き、まず今のところでは相応に利益を得

へ往き奈良に遊び、二、三日長崎に滞在して神戸に立戻って便船を待つつもりであるから、その日までに仕度をして

一週間ばかりの後、鶴子は夕方神戸急行の列車に乗った。始め進の友人間には送別会を催すような

その父は漢学者だとかいう事であるが、清岡は仙台あたりの地方大学に在学中も学業の成績は極めて不出来で、卒業の後文学者

に丸円発行所主催の文芸講演会で講演をされるため仙台から青森の方面へ旅行されます。今年の夏はどこか東北の温泉場

清岡が君江を識ったのは君江が始めて下谷池の端のサロン、ラックという酒場の女給になったその第一日の晩

に通ったのはこの折であった。マダム、シュールは巴里で亡夫の遺著を出版するについて至急な用事が出来たので、

マダムは次の日に京都へ往き奈良に遊び、二、三日長崎に滞在して神戸に立戻って便船を待つつもりであるから、その日まで

て、再びホテルへ出かけた。マダムは次の日に京都へ往き奈良に遊び、二、三日長崎に滞在して神戸に立戻って便船を待つ

を一筆認めて、再びホテルへ出かけた。マダムは次の日に京都へ往き奈良に遊び、二、三日長崎に滞在して神戸に立戻って

円発行所主催の文芸講演会で講演をされるため仙台から青森の方面へ旅行されます。今年の夏はどこか東北の温泉場で避暑

（例）市ヶ谷

からその日は銀座通のカッフェーへ出ればよいので、市ヶ谷本村町の貸間からぶらぶら堀端を歩み見附外から乗った乗合自動車を日比谷で下り

一歩ごとに夜の空がひろくなったように思われ、市ヶ谷から牛込の方まで、一目に見渡す堀の景色は、土手も樹木も一様

は問われてもはっきり住処は知らせなかったが、唯市ヶ谷辺だと答えて、一緒に外濠を逢阪下あたりまで歩いて行く中、

行き次の夜は丸子園に明して三日の後、市ヶ谷の貸間まで一緒に来てやっとわかれた。

込む事になったので、泣きの涙で別れ、独り市ヶ谷本村町の貸二階へ引移り、私娼の周旋宿へ出入する事をよし

と、社殿の正面なる石段の降口に沿い、眼下に市ヶ谷見附一帯の濠を見下す崖上のベンチに男と女の寄添う姿を見

女はスタスタ交番の前をも平気で歩み過るので、市ヶ谷の電車停留場で電車でも待つのかと思いの外、八幡の鳥居を入って

市ヶ谷の堀端へ出る横町は人目に立つので、二人は路地から路地を抜け

は小づくりの女が京葉だということは、いつぞや市ヶ谷八幡の境内から窃に君江の跡をつけた晩、一生涯忘れるはずのない

て行先を見ると、燈火の煌々と輝いている処は市ヶ谷停車場の入口である。斜に低い堀外の町が見え、またもや真暗に

「イヤちょっと市ヶ谷まで用事があったから、寄って見たんだよ。帰って来るまで

をかくす。その前に極く懇意な友達の女給に頼んで市ヶ谷の家へ寄ってもらい、間貸しのおばさんに、或お客様が自動車で送っ

ならない。君江はカッフェーの仕舞際に瑠璃子という女給に市ヶ谷へ立寄って伝言をするように頼んだのである。瑠璃子はもと洋髪屋

市ヶ谷合羽阪を上った薬王寺前町の通に開業している医者が、応急の

どうかすると痛みを覚えるくらいである。間貸の婆は市ヶ谷見附内の何とやらいう薬湯がいいというので、君江はその日

なる活劇は、丁度現在目の前に横っている飯田橋から市ヶ谷見附に至る堀端一帯の眺望をいつもその背景にして進展していた

「市ヶ谷の本村町におります。」

「市ヶ谷本村町丸◯番地、亀崎ちか方ですわ。いつでも正午時分、一時頃

、またもや並んで歩むともなく歩みを運ぶと、一歩一歩市ヶ谷見附が近くなって来る。

て知らず知らず堀端の電車通へ来た。君江は市ヶ谷までは停留場一ツの道程なので、川島が電車に乗るのを見送っ

の貸間からぶらぶら堀端を歩み見附外から乗った乗合自動車を日比谷で下りた。そして鉄道線路のガードを前にして、場末の町へ

の男衆だったという噂もある。君江はこの男から日比谷の占者のことをきいたのである。

その晩二人は数寄屋橋を渡ってガードの下を過ぎ、日比谷の四辻近くまで来たが、三十銭で承知する車は一台もない

日比谷の四辻には電車を待つ人がまだ大分立っている。

出て梅雨晴の俄に蒸暑くなった日盛りをもいとわず、日比谷の四辻から自動車を倩って世田ヶ谷に往き良人の老父をたずねて、洋行の

女給の君江は午後三時からその日は銀座通のカッフェーへ出ればよいので、市ヶ谷本村町の貸間からぶらぶら堀端を歩み

が、ついこの頃、『街巷新聞』といって、重に銀座辺の飲食店やカッフェーの女の噂をかく余り性の好くない小新聞に

のカッフェーに始めて女給になってから、暫くして後銀座へ移ったころである。それを知っているのはまだ女給にならない

「松子さん。あなたも銀座。」

料理場である。料理場は後から建て増したものらしく、銀座通に面した表附とはちがって、震災当時の小屋同然、屋根も

階下は銀座の表通から色硝子の大戸をあけて入る見通しの広い一室で、坪数にし

連れの客のところへ剰銭を持って行き、君江は銀座通を見下す窓際のテーブルを占めた矢さんというお客の方へと歩み

は清岡さんよ。令夫人はシャンだし、第二号は銀座における有名なる女給さんだし……。」

春代とは大抵毎晩連立って数寄屋橋あたりから円タクに乗る。銀座通では人目に立つのみならず、その辺にはカッフェーを出た酔客

「それァ銀座通のことじゃないか。ここまで来れば構やせん。僕が責任を

。ところが或夜二、三の文学者と芝居の帰り、銀座に立寄って見ると、君江は急に心持がわるくなったと言って夕方

半月ばかり京阪を連れ歩いた後、清岡は人を介して、銀座では屈指のカッフェーに数えられている現在のドンフワンに君江を周旋した

女給をしていたいと言った。それならば本場の銀座へ出て経験をした方がよいと、池ノ端のサロンは一カ月あまり

「銀座はあんまり評判になり過るから、そう思うようにはやれないわ。そこへ

「とにかく夜になったら銀座で逢おう。その時にきめよう。」

「銀座あたりにいた奴はいないか。」

の手を留めて、眉を寄せ、「あの児はたしか銀座にいたんだわね。」

すらりとして、身なりは芸者衆よりいい位だから、銀座でもきっと一流のカッフェーでしょうよ。いつでも来るのは朝早いのよ

って、もう三、四ツ年がわかければ芸者なんぞやめて銀座へ押出しますわ。女給さんの方がとにかく表面だけは素人なんですから

となく記者の方を見たが、記者は二人とも案外銀座のカッフェーの事には明くないと見え、別に心当りもない様子で、

「銀座にいたのはお前か。」

て若い記者に返しながら、「こっちへ来てから一度も銀座の方へ行かないから、きっと変ったでしょうね。今どこが一番賑な

「君はこれから銀座へ廻るのかね。」

の関係もあるところから、うかうか一人では行かれない。銀座辺の飲食店を徘徊する無頼漢や不良の文士などから脅迫される虞もあり

は向かない。しかし今時分、丁度酔客の込合う時刻には、銀座のドンフワンなどへは君江との関係もあるところから、うかうか一人では行か

銀座通のカッフェーはこのドンフワンに限らず、いずこも十時過ぎてから店の

おそいのとで、飲みくいする屋台店が残っているばかり。銀座の大通りは左右のひろい横町もともども見渡すかぎりひっそりしていて、雨気を

松崎は今ではたまにしか銀座へ来る用事がないので、何という事もなく物珍しい心持がして

世の噂に上ったこの親爺が、今日泰然として銀座街頭のカッフェーに飲んでいても、誰一人これを知って怪しみ咎めるものも

から抱車で通勤したその当時、毎日目にした銀座通と、震災後も日に日に変って行く今日の光景とを比較する

「君ちゃん。これから銀座？」

と思っているのは、女を裸体にして自動車から銀座通のような町の上に投り出してやりたい。日比谷公園の木の

、進はウイスキー村岡はビール一杯を傾け、足の向くまま銀座通へ出た。村岡は別れて帰ろうとするのを清岡は無理に引留め

と村岡は早速清岡の袖を引張って、土橋へ通ずる西銀座の新道路へ出ようとした。

で、半年近くも稼ぎ廻っていたにもかかわらず、銀座のカッフェーへ出てから今日まで一人もその時分のお客には出逢わなかった

、私は田舎に行っていましょう。夜の涼しさに銀座の賑いが復活する時分、またお目にかかるのを楽しみにしてい

はないかと、気がついて見ると、あの晩西銀座の蕎麦屋へ這入りがけ、意外な処で村岡に出逢った時の様子から思

今もって関係の絶えない松崎という好色の老人と、上野のカッフェー以来とやかく人の噂に上る清岡進という文学者と、まずこの二人

事実である。自分でそれと心づいたのは去年の春上野池の端のカッフェーに始めて女給になってから、暫くして後銀座へ移っ

縁談を避けようがためであった。君江の生れた家は上野停場車から二時間ばかりで行かれる埼玉県下の丸円町にあって、

言うのは、大方両親の意見をきかず家を飛出し、東京へ来て、とうとう女給になった事だろうと思ったのである。

植民地から帰って来て、多年の蓄財を資本にして東京大阪神戸の三都にカッフェーを開き、まず今のところでは相応に利益

。さアお上んなさい。今日は婆やはお墓参り。伝助も東京へ使にやって誰もおらん。」

している私娼と同型のものである。ああいう女が東京の市街に現れて来たのも、これを要するに時代の空気からだ

労する気にはならなかった。十七の秋家を出て東京に来てから、この四年間に肌をふれた男の数は何人だ

、単身米国を漫遊して再び日本に来て二年ほど東京にいた。鶴子が女学校の友達二、三人と語学と礼法と

については予め考えていないことはなかった。しかし東京はさすがに広いもので、半年近くも稼ぎ廻っていたにもかかわらず

地を踏みませんから、先生をお見送りしてから暫く東京を去るつもりでいます。その前に一度お逢いしたいと思って、

細い目尻に皺をよせて笑う。年はもう四十前後。神田の何とやらいうダンスホールの会計に雇われている男で、夕方六時

はとやかく言っている暇もなく、二人の後について新宿行の電車に乗った。

せて畳の上に胡坐をかき、「僕もこれから新宿の駅まで用事があるんだよ。それでちょいと寄って見たんだ

な心持がして来るので、その後老人は図らず新宿の停車場で出会った時は此方から呼びかけたくらいであった。それらの

て早稲田行の電車に乗り、江戸川端で乗換え、更にまた飯田橋で乗換えようとした時は既に赤電車の出た後であった。清岡

種々様々なる活劇は、丁度現在目の前に横っている飯田橋から市ヶ谷見附に至る堀端一帯の眺望をいつもその背景にして進展して

の家へ出入する事を禁じた。その時分進はまだ駒込千駄木町にあった老父熙の家にいて、文学好きの青年らと同人雑誌

月日を過していた。ところが老人は亡妻の命日に駒込の吉祥寺に往った時、一人の若い女が墓前に花を手向けている

過していた。ところが老人は亡妻の命日に駒込の吉祥寺に往った時、一人の若い女が墓前に花を手向けているのを

「新橋会館よ。」と若い方の芸者が直に答えた。

「新橋会館に。そうか。いつ時分だろう。」と今まで黙っていた若い記者

「あら、失礼しちゃうわ。新橋会館よ。」

が、現在の様子や物の言いざまから見れば、本所浅草辺の路地裏によく見るような老婆で、生れも育ちも好くない事

ものもある。疑獄事件で収監される時まで幾年間、麹町の屋敷から抱車で通勤したその当時、毎日目にした銀座通

て置くのも面白い。昔は不義の男女を罰するために日本橋の袂に晒し者にして置いた。それと同じような事さ。どう

松屋呉服店から二、三軒京橋の方へ寄ったところに、表附は四間間口の中央に弧形の

丸円新聞』の編輯局に村岡がいるはずだから。京橋の丸丸番だよ。呼出してすぐにここへ来いッて。」

「京橋の丸丸番だわね。」と春代が行きかけた時、持番の定子と