箱根 八丁堀 入谷 大阪 鎌倉 浅草 新富町 御徒町 日本橋 東京 日比谷 人形町 銀座

年二年とたつ中いつか公然と待合にも泊る。箱根へ遠出にも行く。兼太郎は我慢をしていたが、遂には抱えの

べき処もない。以前ぶらぶらしていた時分行き馴れた八丁堀の講釈場の事を思付いて、其処で時間をつぶした後地蔵橋の天麩羅

「こいつは恐れ入った。ははははは。恐入谷の鬼子母神か、はははは。」

「いいえ。東京にゃいないんですって、大阪にお店があるんですとさ。」

「酒は飲んでも飲まいでもさ。いざ鎌倉という時はだろう、ははははは。しかし大分今夜は酔ったようだな。」

なった失敗の歴史を回想するより外はない。以前は浅草瓦町の電車通に商店を構えた玩具雑貨輸出問屋の主人であった身

の中来ようと思ったんですよ。だけれどお友達と浅草へ行く約束をしたもんだから。」

「お父さん、やっぱり御酒を上るんでしょう。浅草にゃ何もないのよ。」

妾宅まで買ってやった沢次の外に、日本橋にも浅草にも月々きまって世話をした女があったが、いずれも着痩

のいかった身体付のがっしりした女であるが、長年新富町の何とやらいう待合の女中をしていたとかいうので襟

隠してぴったり水口の障子をしめた。男は伊三郎という新富町見番の箱屋で、何でもここの家のおかみさんが待合の女中を

で時間をつぶした後地蔵橋の天麩羅屋で一杯やり、新富町の裏河岸づたいに帰って来ると、冬の日は全く暮果て雪解の

「お照、お前は今どこにいるのだ。御徒町のお爺さんの処にいるんじゃないのか。」

「お父さん見たようになっちゃ駄目だ。御徒町のおじいさんも江戸ッ児じゃないよ。」

「角ちゃんは今だってちゃんと御徒町にいるでしょう。男ですもの。」

こそ、お前に合す顔がありゃしない。お前がちゃんとおとなしく御徒町の家にいた日にゃ途中で逢ったって話も出来ない訳なんだ

「それァそうねえ。わたしが御徒町の家を出たからってお父さんが先のように柳橋にいたら、やっぱり

旅籠町へ遂に妾宅まで買ってやった沢次の外に、日本橋にも浅草にも月々きまって世話をした女があったが、いずれ

「いいえ。東京にゃいないんですって、大阪にお店があるんですとさ。」

たんですよ。だけれどももうよしたの。先に日比谷にいた時お友達になった姐さんがこの先の一丁目に世帯を

「お父さん、それじゃわたし明日からまた先にいた日比谷のカッフェーへ行きますからね。通りかかったらお寄んなさいよ。御馳走しますよ

どうしようかと思っているのよ。今夜はこれからすぐ日比谷へ行こうかと思っているのよ。今日お午過ぎちょっと行って話はし

「まだ十二時ですもの。電車もあるし、日比谷のバーは随分おそくまでやってるわ。夏の中はどうかすると夜

「照ちゃんか。日比谷だっていうから行ったんだよ。」

「この間まで人形町の都バーにいたんですよ。だけれどももうよしたの。先

馴れない時分でも三、四十円にはなってよ。銀座にいた時にはやッぱり場所だわね。百円はかかさなかったわ

の小僧に四合壜の銀釜正宗を持たせ、自身は銀座の甘栗一包を白木屋の記号のついた風呂敷に包んで、再び兼太郎を

「お父さん。わたしが銀座にいた時分から今だに毎日々々きっと手紙を寄越す人があるのよ