札幌 入谷 吉原遊廓 八幡 名古屋 岡山 松山 巴里 東京 浅草 田原町 上野広小路

中の一人はほどなく浅草を去って名古屋に、一人は札幌に行った話をきいた。栄子はその後万才なにがしの女房になって、

観客から贔屓の芸人に贈る薬玉や花環をつくる造花師が入谷に住んでいた。この人も三月九日の夜に死んだ。初め

聞える千束町を真直に北へ行き、横町の端れに忽然吉原遊廓の家と灯とが鼻先に見えるあたりの路地裏にあった。或晩舞台で

八幡の町の梨畠に梨は取り尽され、葡萄棚からは明るく日がさす

を食べた踊子の中の一人はほどなく浅草を去って名古屋に、一人は札幌に行った話をきいた。栄子はその後万才なにがしの

の響をききつつ光陰の早く去るのに驚いている。岡山にいたのは、その時には長いように思われていたが

も忽ち末近くなって来た。去年の秋はこれを岡山の西郊に迎え、その尽るのを熱海に送った。今年下総葛飾の田園

来た。いつの日にか、わたくしは再び妙林寺の松山に鳶の鳴声をきき得るのであろう。今ごろ備中総社の町の人たち

を醸す。郷愁ほど情緒の美しきものはない。長くわたくしが巴里の空を忘れ得ぬのもこの情緒のなすところであろう。

巴里は再度兵乱に遭ったが依然として恙なく存在している。春と

東葛飾の草深いあたりに仮住いしてから、風のたよりに時折東京の事を耳にすることもあるようになった。

観客から喝采せられていた人たちの大半は震災後に東京へ出て来て成功した地方の人のみであった。しかしこの時代

春ともなればリラの花も薫るであろう。しかしわが東京、わが生れた孤島の都市は全く滅びて灰となった。郷愁は在る

たちの中で兵火のために命を失ったものは大抵浅草の町中に住み公園の興行ものに関与っていた人ばかりである。

余裕頗る綽々としたそういう幸福な遭難者には、浅草で死んだ人たちの最期は話して聞かされても、はっきり会得すること

身丈の低くからぬ、丈夫そうな爺さんであった。浅草という土地がら、大道具という職業がらには似もつかず、物事

の店で物を食べた踊子の中の一人はほどなく浅草を去って名古屋に、一人は札幌に行った話をきいた。栄子は

大道具の頭の外に、浅草では作曲家Ｓ氏とわたくしの作った歌劇『葛飾情話』演奏の際、

浅草公園はいつになったら昔の繁華にかえることができるのであろう。観音堂

いた人も死んだそうである。その家は公園から田原町の方へ抜ける狭い横町であったがためだという話である。観客

ほどではなく、案外垢抜けのした小柄の女で、上野広小路にあった映画館の案内人をしているとの事であった。爺さん