行徳 平井町 下谷 深川 東京 浅草橋 上野 新小岩 亀戸

「あの、もう一軒、行徳に心安いとこがあるんです。そこへ行つて見やうかと思つてゐます。

「えゝ。わたし平井町です。一ツしよに逃出したんですけど、途中ではぐれてしまつたん

一ツしよに一廻りして見やうぢやありませんか。下谷も上野寄りは焼けないさうですよ。」

深川古石場町の警防団員であつた荒物屋の佐藤は三月九日夜半の空襲

また近処の家でつくる高箒を背負つたりして、時々東京へ売りに行つた。その都度もと住んでゐた町会へも立寄り、女房

いつものやうに笊を背負ひ、束ねた箒をかついで省線浅草橋の駅から橋だもとへ出た時、焼出されの其朝、葛西

「上野の方へでも行つて見やうかと思つてゐます。広小路から池の端の

しよに一廻りして見やうぢやありませんか。下谷も上野寄りは焼けないさうですよ。」

或日、新小岩の町まで仕込の買出しに行つた佐藤が帰つて来て、こんな話を

＼屋だよ。あすこに五六十軒もあるだらう。大抵亀戸から焼け出されて来たんださうだがね。」

「あら。さう。亀戸。」

千代子の耳には亀戸といふ一語が意味あり気に響いたらしい。

「亀戸にや前々から引掛りがあつたらしいのよ。でも、あなた。よくわかつ