赤坂 下谷 千葉 岐阜 銀座 東京 小岩

「御機嫌よう。赤坂の姐さんにお目にかゝつて、こちらの番地を伺ひました。

板前の家はもと下谷の入谷であつたので、その方面へ行つた時わざ／＼區役所

「千葉縣八幡。番地は家に書いたものがある筈だよ。お前さんの

「上田は家が岐阜だから、便はないが、大方疎開してゐるだらう。疎開のおかげ

（例）銀座界隈

年たつて歸つて來た。然し統制後の世の中一帶、銀座界隈の景況はすつかり變つてゐた。

新太郎はもみぢといふ銀座裏の小料理屋に雇はれて料理方の見習をしてゐる中、徴兵

の外へ焜爐を持出して鍋をかけてゐる。見れば銀座の店で御燗番をしてゐたお近といふ女であつた。

仕込にする物が足りないため、東京中の飮食店で毎日滯りなく客を迎へることのできる家は一

停戰になつて歸つて來ると、東京は見渡すかぎり、どこもかしこも燒原で、もみぢの店のおかみさんや料理

或日のこと。東京の中野から小田原へ轉宅する人の荷物を積み載せて、東海道を走つ

のは年の頃三十前後、髮は縮らしてゐるが、東京でも下町の女でなければ善惡のわからないやうな、中形の浴衣

ので、一まづそこに身を寄せ、市役所の紹介で小岩町のある運送會社に雇はれた。

「八幡ですか。そんなら譯はありません。わたしは小岩の運送屋に働いてゐますから。」

「小岩に居ります。トラツクの仕事をしてゐます。忙しくツて仕樣があり