出家とその弟子 / 倉田百三
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顕智 この春奥州へ発足いたしました。(涙ぐむ)所詮御臨終のお間には合いますまい
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親鸞 うむ。(間)私が比叡山で一生懸命修行しているころであった。慈鎮和尚様の御名代で宮中
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良寛 ごもっともでございます。(間)私は比叡山と奈良の僧侶たちが憎くなります。かほどの尊い聖人様をなぜあしざまに讒訴
思います。私は九歳の年に出家してから、比叡山や奈良で数十年の長い間自分を善くしょうとして修業いたしました。
た。それはずいぶん苦しみましたよ。雪の降る夜、比叡山から、三里半ある六角堂まで百夜も夜参りをして帰り帰りした事
(座ぶとんを持って来て敷く)きょうはよく晴れて比叡山があのようにはっきりと見えます。
を退出した。どんなに恥ずかしい気がしたろう。それから比叡山に帰る道すがら、私はまじめに考えてみずにはいられなかった。私
を山へ連れて登ってくれというのだ。私は比叡山は女人禁制で女は連れて登るわけに行かないと断わったのだ。する
同行三 ではございましょうが、あなたは長い間比叡山や奈良で御研学あそばしたのでございましょう。私たち無学な者にはわからぬ
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村萩 おやもみじ。気をつけないと浅香さんが青丹をしますよ。
村萩 あといくらも札が残ってなくてよ。
村萩 (笑う)お気の毒様。
村萩 すぐに行かないとまたあとで悪くてよ。
村萩 あなたはこのごろおからだでも悪いのじゃなくて。
村萩 なんだか景気がよくないのね。いつも沈んでいらっしゃるわ。
村萩 少しおやせなさいましたね。
村萩 あまり物事を苦になさるからよ。私みたようにのんきにおなりなさい
村萩 それはそうよ。けれど私たちのような身で、物を苦にした
村萩 町も春めいてずいぶん陽気になりましたよ。今晩方も店に出て
村萩 皆で花見に一日行こうではありませんか。
村萩 それはそうとかえでさんはまだ帰らないの。
村萩 どこへ行ったのでしょう。
村萩 ずいぶんおそいのね。
村萩 そうでもないようよ。(間)実はね。おかあさんが私に腹
村萩 ぷりぷりしていましたよ。気をつけないと、またあのおかあさんがおこり
村萩 なにしろ稼業になりませんからね。それにかえでさんは私なんかには何
村萩 けれどあの人は気が高すぎます。きょうもこそこそ出かけていたから、
村萩 あんまり私たちを軽く見ていますからね。
村萩 なにしろ少しあなたから気をつけたほうがよくてよ。皆そう言っている
村萩 そんなに気に留めなくてもいいことよ。ではまた寄せてもらいます
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ごもっともでございます。(間)私は比叡山と奈良の僧侶たちが憎くなります。かほどの尊い聖人様をなぜあしざまに讒訴し
私は九歳の年に出家してから、比叡山や奈良で数十年の長い間自分を善くしょうとして修業いたしました。自分
三 ではございましょうが、あなたは長い間比叡山や奈良で御研学あそばしたのでございましょう。私たち無学な者にはわからぬか
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もうおかくれあそばしました。そのたよりのあったのは上野の国を行脚している時でしたがね。お師匠様は道に