牛込 福岡 東京

仕度を下女に任せて、大急ぎで俥に乘つて、牛込から芝の西久保まで驅け付けた。潛り戸を入つて敷石傳ひに

を負つて綺麗に片付けようとも思つてゐるのだけれど、福岡にゐる雪子の實父がどうしても承知しないので途方に暮れ

も村上の主人が來て、私にも孫と一緒に福岡へ行くか、たつて行きたくないと云ふのなら、私だけ此方で隱居

「福岡の方では今度のことを言ひがゝりにして、だから老人

、只の一度も物見遊山に出掛けたことはなかつた。福岡へ宛てゝの暑さ寒さの消息にも、孫の自慢はして

對する情愛は度外れに募つて、婿の清がある會社の福岡支店長として赴任することになつても、お國の遺言を盾に

へ歸つて清から隱居を貰つて生きてゐたり、福岡三界へ隨いて行つたりする氣には些ともなれないよ。お前ばかりは

貰ひ泣きした。そして、祖母の意を迎へて、福岡の清夫婦の所行を非難したり、親戚の誰れもが祖母の味方に

見かしてゐたよ。四月にもなつたら、福岡から主人が一寸東京へ來るんださうだから、さうしたら、無理に

ゝば一言もあるまいよ。親爺の話によると、福岡では祖母さんが強いて頑張つて子供を離さんと云へば、月々

ちや生きてゐませんよ。三人の中一人でも福岡の清の所へはやらないと始終さう云つてるんですもの。子供だつて

「お父さんが福岡から來て無理に連れて行かうとしたら、貴女はどうして？

「月が變つたら福岡から入らつしやるんでせうのに、雪ちやんは出歩いてゐても

福岡の清夫婦からの土産物として博多織がお梅の家へ屆い

なつてゐたのですが、老人の方では娘が福岡へ連れて行かれりやしないかといふ心配が何よりも先に

清に後妻が出來てからは尚更で、清夫婦が偶に東京へ歸つて來た時などは、若しか子供を取られりやしない

の遺言を盾に、頑なに言ひ張つて孫と共に東京に踏み留まつてゐた。清に後妻が出來てからは尚更で、

「學校は矢張り東京でなくちやよくないのでせうね。」

「さうですとも。私の目の黒い間は、東京で教育して立派に大學まで修業させて見せるから。五年や十

たよ。四月にもなつたら、福岡から主人が一寸東京へ來るんださうだから、さうしたら、無理にも結着がつくこと