東京の風俗 序 / 木村荘八
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と、それまで何も無かつた空からみるみる紺青色の比叡山がぬつと現はれて来ました。これにドギモを抜かれました。その時
ました。これにドギモを抜かれました。その時の比叡山の一角をかすめた空の澄んだ青さは、死んでも忘れぬ印象で
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は、たしか十二歳の時でしたが、学校の遠足で銚子の犬吠崎へ行つた時でしたが、道が砂丘のやうなつま先上りに
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を見たのは――これも学校の遠足が日光、筑波山などと、順に山に馴れさせたとは思ふが抑々「山」らしい
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ます。京都の如き区域の地は雅びて感じますし、奈良はさびて町の一筋でも心涼しく感じます。東京のやうに紙屑籠
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口」は「全くさうだなア」程度に事新しく感じます。京都の如き区域の地は雅びて感じますし、奈良はさびて町の一筋
思ひますけれど、到底「己が土地」とは思へません。京都の如きも常住坐臥常に三十六峰を背負ふ町住居は、結局寂しさに
「山」らしい山を見たのは、二十歳に近づいて京都へ行つた時が初めで、東山に絹糸のやうな霧雨が降りこめてゐ
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東京の風俗 序
と思はれますが、今全編の校正を終つて「東京の風俗」一本としてこの本を見ますと、題名に不釣合
「東京の風俗」といふ題名のもとに初めから一冊の本を書いたと
」と大見出しにした節から成る書きものは、元「東京遠近」と題して週刊ものにつづけた文章です。
この本の中の特に「東京の風俗」と大見出しにした節から成る書きものは、元「東京遠近
といふ言葉は生硬で意味の通りにくいことを恐れて、東京の風俗とし、それをそのままこの本全体の命題としました。
東京遠近といふ言葉は生硬で意味の通りにくいことを恐れて、東京の風俗
に対する――著者の態度なり見方は、ひつきやう「東京遠近」式に変化ないでせう。
たけれど、この一本を貫く――これが材料の「東京」に対する――著者の態度なり見方は、ひつきやう「東京遠近」
「東京遠近」とは、東京を広く一般にバーズ・アイ・ビューで見るとは反対に、狭からうとも竪
「東京遠近」とは、東京を広く一般にバーズ・アイ・ビューで見るとは
いはうよりも、終始一貫、このさなかにゐますので、東京を描いて、私には呼吸のつけるところはない。
は別段大変化はありません。終始一貫して私は東京を愛します。「愛します」とその相手のモノを自分から離していはう
て生きてゐると思ひます。こんどの戦争で――(東京もメチヤメチヤになつた一つですけれど)――跡形もなくやられた土
ものがあつて、その中の虫のやうに、私は東京を呼吸して生きてゐると思ひます。こんどの戦争で――(東京
と、私は、その一々に対して同感出来ます。寧ろ東京の「善口」よりは「悪口」に対して常によく同感出来るで
ないか……わかつたものでありませんし、東京はわるい汚ないところであつて、時と共に益々わるく汚なくならうとも善化
「東京」といつたところで真の東京が果してどんなものか、それが何処まであるかないか……わかつ
「東京」といつたところで真の東京が果してどんなものか、それが何処まで
、奈良はさびて町の一筋でも心涼しく感じます。東京のやうに紙屑籠を、又は玩具箱を引つくり返したやうな殺風景な
反対に東京以外の地域に対しては――よく知らないせゐもありませうが―
東京には山も海もありません。品川の海の如き、あれは埋め立て
たりと落附いてゐられるものですから――それで「東京」をはなれられないのだと思ひます。
東京は刻々に変じてメチヤメチヤになり、土地の名も無くなり、最近では京橋
ものでありませんが、ただ、如何なる変動があらうとも、東京が樹々山々に囲まれることはありません。
恐らく東京以外の方達は、この土地にゐて、何が「寂しい」といつ
文字通り「他国」の空です。東京には想像をも空想をも絶して夢にも、無いことです。
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東京には山も海もありません。品川の海の如き、あれは埋め立てではあつても「海」でも何
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変じてメチヤメチヤになり、土地の名も無くなり、最近では京橋三十間堀の如き又も掘つくり返されて、私の本籍のありますその