江南 比叡 嵐山 荒川 寂光院 知恩院 堺 清水寺 須磨 叡山 京都 福井 松山 大塚 荻窪 東京

間窗枕帙夢江南　　間窓帙を枕として江南を夢む。

老眼重對比叡峰　　老眼重ねて対す比叡の峰。

よしとふ嵐山かははらに伏すつけ剣の銃（帰途嵐山に廻はる）十一月十三日

秋風就縛度荒川　　秋風縛に就いて荒川を度りしは、

手錠して荒川の獄に移されし秋雨のけふぞ忘らえなくに

いのちありて名のみ聞きゐし大原の寂光院をけふぞ見にこし

知恩院の鐘が鳴るかもなつかしや老いらくの耳にかそけくも聞く

堺より真魚もたらして友来たるこのときつよに冥加をおもへ

堺より一羽の鶏を割きもちて尋ねてくるる友もありけり（福井君

福井君一羽の鶏を割かしめ、大皿に盛りて遠く堺より持ち来りくれらる。好意感謝すべきなり。乃ちしるこを作りて饗す）

清水寺

むかしわれ父にはべりて詣うでたる清水寺に曼珠沙華咲くも

間もなく米寿を迎へらるべき伯父上を須磨に見舞ふ、往復途上口占

年あまり放浪の旅ゆかへりて眺むればうつくしきかな叡山の色一月四日

十二年目に見る京都の美しさ、なつかしさは、限りなきものあり

福井君に寄す

にすれど、所詮我には縁なきことなり。この日福井君一羽の鶏を割かしめ、大皿に盛りて遠く堺より持ち来りくれ

の鶏を割きもちて尋ねてくるる友もありけり（福井君来訪。この頃鶏肉を手に入るること極めて難し。食事の公定価格は

松山をそがひにしたる青淵の鱒住みしかげも浅瀬となりぬか以上

大塚金之助氏の不幸を悼みて

義弟大塚有章、幽囚十年、出獄而未旬日、

荻窪天沼の寓居は北裏に広々としたる田畑あり、出獄後の身にとり

六月下旬、東京保護観察所よりの来状に本づき、謂はゆる左翼文献に属する内外の

庚午正月三日、余携家移東京、當時心竊不期

東京より畑田氏夫妻わざ／＼尋ね来られむとす

に鞭あつるもののふがにも京を立ちしが（居を東京に移せしは昭和五年の一月の初なり、今や早く十三年前