空を飛ぶパラソル / 夢野久作
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て、それから又、十分ばかりの後には、筥崎八幡宮の裏手の森蔭に「花房敬吾」と標札を打った、長屋風の格子戸の
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は下駄を裏返してみると、まだ卸し立てのホヤホヤで、福岡市大浜竪町金佐商店という商標が貼ってあって、踵の処に※と刻印
数時間の後、私は今川橋行きの電車の中で、福岡市に二つある新聞の夕刊の市内版を見比べて微笑んでいた。ほかの
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記事の夏枯れ季節に入りかけた時分なので、私のいる福岡時報は勿論のこと、その他の各社とも何かしら読者を惹き付ける大
、何故か東京へは行かずに、博多駅で下車し、福岡の知人を便って、九大の眼科に看護婦となって入り込んだ。これを
に、二人切りの新世帯を作って、そこから汽車で福岡へ通勤することにしたが、しかし私は、その新妻から尋ねられた
私は依然としてニヤニヤのまま押し通した。そうして福岡から二里半ばかり東北の香椎村に、二人切りの新世帯を作って
花房というのは現在、福岡の電燈会社の工夫をやっている男で、昨年の春にオシノという
福岡時報 記者様』
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、袂と、帯の間を撫でまわしてみると、筥崎から佐賀までの赤切符の未改札が一枚と、小型の名刺に「早川ヨシ子
中略)……わざと博多駅より二つ手前の筥崎駅から、佐賀までの赤切符を買ったが、その列車を待ち合わせている間に、色々と
ず、窃かに旅費をこしらえて、単身人眼を避けつつ、佐賀の両親の許に行くべく決心した……(中略)……
とヒソヒソ話をする。何でもヨシ子がこの頃急に佐賀へ帰ると云って駄々をこね出したので、二人が困っていると
かもわかった。ヨシ子が駄々をこねて、単身で佐賀へ行きかけたのは、どうも少々オカシイと思ったが……そこいら
そうかも知れん。殊に今度の事件などは、相手が佐賀一の金満家と来とるから、姉歯も腕に縒をかけとるという
のおやじを脅喝ろうという寸法だ。だからその時に佐賀署と連絡を取って、ネタを押えてフン縛ろうと思うておったの
の佐賀版で見た時枝のおやじが、昨夜のうちに佐賀から自動車を飛ばして来て、今朝暗いうちに僕をタタキ起したんだ
も絶対に書いては困るがね。この記事を夕刊の佐賀版で見た時枝のおやじが、昨夜のうちに佐賀から自動車を飛ばして
とウヤムヤな事を云いおるんだ。念のために佐賀署へ電話をかけて聞いて見ると、時枝の家族も口を揃えて
アノ姉歯の奴で、君の書いた夕刊を見るなり、佐賀の時枝へ電話か何か掛けおったんだろう」
「ああ。わかっている。今朝六時頃にネエ。佐賀の時枝のオヤジが僕の処へ駈け込んで、取消しの記事を頼んだよ
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のは、四年前の事であったが、何故か東京へは行かずに、博多駅で下車し、福岡の知人を便って、九大
記事……(上略)……時枝ヨシ子(二〇)が東京にあこがれて家出をしたのは、四年前の事であったが
こうだ。……うちの娘は元来勝気な娘で、東京へ行って独身で身を立てる、女権拡張に努力するという置手紙をし
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停留場を通過すると、職業柄懇意にしている筥崎署の大塚警部が飛び乗って来たので、脛に傷持つ私はちょっとドキンとさ
大塚警部は私よりも十五六ぐらい年上で、二三度一緒に飲みに行っ
私はわざとニッコリしてうなずいた。その私の顔を大塚警部はニガリ切って白眼み据えた。
と大塚警部は眼を丸くしながら、慌てて手を振って飛び退いた。苦笑し
大塚警部は又汗を拭いた。帽子を冠り直して一層身体をスリ寄せた
大塚警部は苦笑した。二三本白髪の交った赤い鬚を、自烈度そう
ても居てもいられないような気持ちになった。大塚警部も困惑した顔になって、サアベルの頭をヤケに押し廻した
あったが、そういう私の顔をジッと見ていた大塚警部はチョット四囲を見まわすと、黄色い白眼をキラキラ光らせながら、一層顔を
、汗ばむ程握り締めた。いつの間にか私自身が、大塚警部の手中に握り込まれていることに気が付いて……。
大塚警部は一人で承知したように、形式だけ片手をあげると、クルリと
事、私は東中洲のカフェーで偶然に私服を着た大塚警部に出会した。警部は誰かを探しているらしかったが、私が
はそれから盛んにビールを飲んだが、私は妙に大塚警部の云った事が気にかかって、どうしても酔えなかった。