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になりました春の事で――初めの時は、大阪の或る店から外国の金持ちに売るのだと申しまして、金の額ぶち入り

まして人目を忍びながら、私の氏神になっております博多の櫛田神社へ参詣致しまして、そこの絵馬堂に掲げてあります二枚

手荷物を纏めかけたので御座いましたが、そのうちに博多で求めました灰色のブランケットを畳んでおりますと間もなく、私は又

その三角洲は東中洲と申しまして、博多織で名高い博多の町と、黒田様の御城下になっております福岡の町との間

お母様はそれから十一になられますと、博多の小山という所の母方の御親戚に当るお婆さんの処へ行って

織の男帯を持って来まして、これは今上方から博多に来ている力士の帯で、わざわざ博多へ注文して織らせて上方で

は今上方から博多に来ている力士の帯で、わざわざ博多へ注文して織らせて上方で仕立てさしたものだけれど、何だか結び目

それから今一つ、お母様が十八の年の二月に博多一番と云われております大金持ちの柴忠（本当は柴田忠兵衛）さんという

。失礼な言葉づかいを何卒おゆるし下さいませ）というのが博多に参りまして瓢楽座で十日間芝居を致します。そのお目見得芝居の芸

云って舌を捲かれたという事で、今でも博多の人の噂に残っているそうで御座います。

博多の店に二三軒中等物の約束があり、又田舎からも極安ものを二百

…イヤイヤ決してお世辞を云うのでは御座いませぬ。流石に博多は諸芸の都だけあると皆、感心をしておりましたので……

その押絵は、その春の末、博多で名高い山笠のお祭りのある前に櫛田神社の絵馬堂にあがりました。その

）から父は関西地方の興行に出かけまして、長崎から博多を打ち止めにして、三月のお芝居に間に合うように帰って来たそう

しますとそのまま、うなだれて外へ出ましたが、寛永寺の御門の前の杉木立に近い人気の絶えた処まで参りまして、

それからちょうど夕方の事でした。ずっと遠くの駿河台の方からニコライ堂の鐘の音が聞こえますと間もなく、図書館の人

と同じように喀血をなされました。そうして同じ丸の内の綜合病院に、御入院になりまして、私の名前を呼びつづけてお

引っこき詰めのグルグル巻の頭では不可んぞ。伊豆の大島に岡沢の親戚があるように思われては困るからの……」

ですから私はその運命とお別れを致したいためにわざわざ九州まで参りましたので御座います。早かれ遅かれ助からぬ生命と存じまして……

私の生家は福岡市の真中を流れて、博多湾に注いでおります那珂川の口の三角洲の上

そうです。その前に父は二度ばかりどこか（多分関西でしょう）へ行きまして、この衣裳のお手本を見て来ていろいろ細かい指図

な返事をしながら笑っておりましたが、そのうちに八丁堀の大旦那様（大沼氏）や平川町の先生（紫紅氏）方がお見え

被布を羽織りましたまま汽車に乗りまして、故郷の九州福岡へ帰りました。そうして博多駅より二つ手前の筥崎駅で降りまし

博多の町と、黒田様の御城下になっております福岡の町との間に挟まれておりますので、両方の町から幾つ

あります。嘘か本当か存じませぬが、その頃の福岡の流行り歌に、

「みなさんみなさん、福岡博多で、釣り合いとれぬが何じゃいナ。トコトンヤレトンヤレナ。あれは井ノ口旦那と奥さん

ところへ見えました。今ちょうど何でもお出来になる福岡一の美しい奥さんが見えているから、といってお母様に押しつけて仕舞われ

「私の舞台姿が福岡で名高い奥様のお手にかかるとは一生の誉れで御座います。何とぞよろしく

ましたそうですが「三年子なければ去る」という慣わしが福岡にもありましたのに、かんじんのお母様がお家付きで、お父様の方

から間もなく流行り出しました手鞠歌で、今でも福岡の子守女は唄っているそうで御座います。

その頃町つづきの博多福岡では大変に押絵が流行致しましたので、町の大家なぞは、

入るとポツポツ八月のお節句の人形に取りかかられます。福岡の習慣として三月過ぎに生まれた女の子は八月に祝うのです

「コヤツ（福岡の人は吾が児のことをよくこんなに申します）は俺のお祖母

さんのお宅にお厄介になっておりました。それから福岡の小学校へ通わして頂いたので御座いますが、その間の芝忠さん

上にどんなに辛棒しようと思いましても、生れ故郷の福岡には居られないような気持ちになったからでも御座いました。

た不義者の子よ……東京一の女形俳優と、福岡一の別嬪夫人の間に出来た謎の子よと、指さし眼ざしされ

ていなかったとどうして考えられましょう。その頃の福岡の士族の家庭にはオキマリのように一部ずつ備え附けてありました八

二十四年）から父は関西地方の興行に出かけまして、長崎から博多を打ち止めにして、三月のお芝居に間に合うように帰って

東京へ帰りつきますと、わざと、場末の名もないような小さな宿屋に泊りまし

御座います。それにつきましては、もう四五日しますと東京の千両役者で中村半太夫（あなた様のお父様で御座います。失礼な言葉づかいを

の教を籠めたものとか、役者は河原者というけれど東京の俳優はそうばかりではなく、よい役者になると礼儀の正しい立派な

て差上げます。この頃は汽車というものがありますから、東京へ電報を打てば十日足らずで着きますから」

それから何日か経ちますと東京から大きなお菓子の箱みたようなものが、お母様のお名前で送って

間もなく、思い切って芝忠さんにお暇を願って東京の音楽学校に入る決心を致しました。それは、ちょうどその頃に、

……あれは新聞に出た不義者の子よ……東京一の女形俳優と、福岡一の別嬪夫人の間に出来た謎の子

そればかりでは御座いません。私が東京に行こうと決心致しましたに就きましては、私自身にもわかりませぬ、

私は直ぐにも東京に上って「中村珊玉様」にお眼にかかって「私は不義

「それは結構なことと思います。ちょうど東京の音楽学校の講師で、帝大の教授をやっている岡沢というのが

ませず、途方に暮るるばかりで御座いました。それに東京のめまぐるしさと賑やかさと、とりあえず這入っておりました上野の仏和女学校の学科

「マア。ホントニ。トシ子さんはもうすっかり東京通と思っていたら、大切の大切の歌舞伎座を落っことしていたわね

お暇を頂きましたか、そうして何の目的で東京に参りましたのか。その時までスッカリ忘れていたでは御座いませ

の風付きのスッキリして来たこと……それでこの東京に来た甲斐があるわ……ネエあなた……」

正成の討死とか、白虎隊の少年の切腹とか、上野の彰義隊の戦争とか、日本武尊が熊襲を退治していられるところ

に東京のめまぐるしさと賑やかさと、とりあえず這入っておりました上野の仏和女学校の学科の難かしさと、それからもう一つ、生れて初めて

の着物と着かえまして、先生御夫婦のお伴をして上野から鉄道馬車に乗りましたが、久し振りに厚ぼったい帯をシッカリと締めましたの

かどうかを、たしかめようと思いまして、毎日のように上野の図書館に行きました。むずかしい産科の書物や心理学の書物を何十冊ほど

が残っておったので御座いましょう。時々思い出したように上野の図書館に参りましては、医学に関係しました不思議な出来事や、珍らしい

一本棒で暮すは大塚どんよ。（杖術の先生のこと）

汽船にも酔いもせずに、三日三夜かかって新橋に着きますと、岡沢先生御夫婦のお迎えを受けまして谷中の閑静な