山羊髯編輯長 / 夢野久作
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わ。明日ね。妾が、この麻雀の籠を持って大阪へ行ったら、ここの警察へ思い切り馬鹿にした投書をするから、その投書
兼ねて東海道線を荒しまわって東京と大阪の警察に散々御厄介をかけていた箱師のお玉(二七)という有名
を済ませて後、今朝上り七時三十分の急行列車にて大阪に高飛びせむとするところを、張込の刑事に押えられたるものなるが
見ると山羊髯のおやじは仕事が閑散だと見えて、大阪の新聞の経済欄を読みながら、朝日を吸っては咳き入り、咳き入っては水
新聞が佐世保へ廻わったらドンナに笑われるか……イヤ。大阪の新聞がドレ位腹を抱えるか。つまるところ、山羊髯と俺が同罪なん
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密輸入用の麻雀(支那の賭博具)一箱を盗みて博多に来り、氏名不詳の青年と同伴して、巧みに追跡の刑事の眼を
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、箱崎というと有名な筥崎八幡宮の所在地だろう。その八幡宮の横町に在る下駄屋が、まだ寝ていると見えて、表の板戸を
まさかソレ程の素晴らしい、尖端的なハイカラ犯罪が、勿体なくも八幡宮のお膝下に住居する仏惣兵衛の、正直の頭に宿ろう等とは思われない
銀貨の山を目当てにフラフラと九州へ来て、フラフラと八幡宮横の惣兵衛の家を探し当てて、フラフラと惣兵衛を呼起して下駄を誂えたもの
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福岡市外というから箱崎町はかなり遠い処かと思ったら何の事だ。町続きで十分ぐらいしか電車
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年頃だったか東京の某新聞社に居た時分に、桜島の大噴火、鹿児島市の大混乱と題して吉原の火事の写真を使ったことがある
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東京の某新聞社に居た時分に、桜島の大噴火、鹿児島市の大混乱と題して吉原の火事の写真を使ったことがある。その逃げ迷っ
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そのうちに伊勢の山田の灸点の先生の処へ行って養生をしていた、女房の
が俗に魔がさしたとでもいうのであろう。伊勢の天鈴堂という大流行の灸点師の合宿所の共同風呂で、東京から神経痛
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た福岡一のルネッサンス式高層建築で、上層の三階が九州随一の豪華を誇る博多ホテルになっている。その下の方はカッフェ、理髪
。僕も実はスッカリ東京を喰い詰めちゃってね。はるばる九州クンダリまで河合又五郎をきめて来たんだ。そうしてタッタ今、玄洋新聞社
何の事はない五十銭銀貨の山を目当てにフラフラと九州へ来て、フラフラと八幡宮横の惣兵衛の家を探し当てて、フラフラと惣兵衛
、渡辺通りから郊外へ出たと思うと、驚ろく勿れ、九州の炭坑王と呼ばれた、安島子爵家の門内に走り込んだ。
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「飛んでもない事をした。この新聞が佐世保へ廻わったらドンナに笑われるか……イヤ。大阪の新聞がドレ位腹を
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当てどもない福岡の町のマン中へ飛び出した。生れ変ったような溌剌とした気持で
、玉突、食堂なぞいうデパートになっていて、いずれも福岡一流のダンデーな紳士が行く処だそうな。
博多ビルデングというのは、この頃建った福岡一のルネッサンス式高層建築で、上層の三階が九州随一の豪華を誇る
て来たから、妾ここで振り撒くつもりで降りたらモウ一人福岡署から加勢が来ている上に、アンタまで跟けて来るんだもの。
る手紙を所持しおりたる模様にて、その大胆不敵さには福岡署員も呆れおりたり。
、懐中には、「梅田駅」より「お玉拝」「福岡警察署御中」と認めたる当局を愚弄せる手紙を所持しおりたる模様にて、
いた箱師のお玉(二七)という有名な掏摸が、福岡署の網に引っかかって捕えられた。同女は最近、その筋の手配が
吾輩は一瞬間ポカンとなった。トテモ福岡みたいな田舎に居そうにもない歌舞伎の女形みたいな色男が、イキナリ吾輩
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ともわかっている。東海道で稼げなくなって、上海、長崎の門管ラインに乗換えたところを又、古疵同然の吾輩に附き纏われ
に妾を助けて頂戴。ね。妾、武雄の温泉で長崎から宝石入りの麻雀を抱えて来た男の荷物を置き換えて来たん
の手配が厳しいため、東海道線では仕事が出来なくなり、長崎上海航路に眼を付けて九州線に入り、武雄温泉に入浴中、同宿
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を為尽した揚句、大正十一年の下半期に到って、東京中の新聞社からボイコットを喰った上に、警察という警察、下宿という
東京一、日本一の東洋時報社で、給仕からタタキ上げた腕ッコキの新聞記者
みようと思ってお訪ねした訳なんですが……東京中の新聞社と警察と下宿屋連中にお構いを喰っちゃったんで行く処が
ナアニ、東京の電車だって揺れるのだが、取りあえず、そんなチャラッポコを云って相手の顔
「イヤ。こちらの事だ……君は東京かい」
「ヘエ。東京の丸ビルに居りました」
女こそ箱師のお玉といって名打ての女白浪だ。東京で警視庁に上げられる度に、吾輩から感想を話させられた女だ
ミリになりそうだ。ねえ玉ちゃん。僕も実はスッカリ東京を喰い詰めちゃってね。はるばる九州クンダリまで河合又五郎をきめて来たん
下らない海外電報が、薄汚ない活字で行列している。東京の新聞の切抜らしいのが特に大きく載せてあるのが浅ましい。吾輩はチョット
兼ねて東海道線を荒しまわって東京と大阪の警察に散々御厄介をかけていた箱師のお玉(二七)
の花柳界の情勢、待合、芸者のパトロンの尊名から、今東京で封切られている映画が、いつ頃、どこの社の手で、当地方
精力では勤まるものでない。第一面の海外電報、東京電話の早し遅し、捏造記事か与太記事かを見分けるためには、猫の
て迷い込んで来たとしか思えないだろう。吾輩みたいな、東京中の新聞社を喰い詰めた、パリパリの摺れっ枯らし記者の上に立つ編輯
…と思い思い吾輩は縁日物の中折を脱いで、東京以来のモジャモジャ頭を掻き廻わした。同時にムウッとする程の頭垢の大群
吾輩も色男ぶりに於ては、東京初下りの自信をすくなからず持っているつもりであるが、残念ながらこの
「失礼ですが旦那、東京の方で……」
「東京はドチラ様で入らっしゃいますか」
「東京だってどこで生れたか知らねえんだ。方々に居たもんだから
「君も東京かい」
色事か何かで縮尻って落ちぶれて来たんだろう。東京と聞くとゾッとするような思い出があるんだろう。
東京を怖がっているような言葉尻の濁し方だ。多分東京で色事か何かで縮尻って落ちぶれて来たんだろう。東京と聞く
。愛嬌者だというのに、どうも、おかしな男だ。東京を怖がっているような言葉尻の濁し方だ。多分東京で色事か何
て来たんだい。それくれえの腕があれあ、東京だって一人前じゃないか。ええ?……」
タマラなく胸が一パイになる。眼を閉じていると東京に帰ったようななつかしい気がする。
「どうだい。東京が懐かしいだろう」
堂という大流行の灸点師の合宿所の共同風呂で、東京から神経痛を治療しに来ている理髪職人の甘川吉之介とタッタ一度、あやまっ
これを聞いた吉之介は、東京で色々な女を引っかけ飽きた揚句、親方の女房と情死をし損ねて
大正の三四年頃だったか東京の某新聞社に居た時分に、桜島の大噴火、鹿児島市の大混乱と
写真を、不思議に早く着いた上海○○新聞から切抜いて東京大阪の新聞をアッと云わせようという山羊髯の心算だったのだろう。
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「ウン。今浅草で流行り出している」
も山奥の村長さんか、橋の袂の辻占者か、浅草の横町でインチキ水晶の印形を売っている貧乏おやじが、秋風に吹かれ
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じゃないか。柔道こそ知らないが、スワとなったら、銀座界隈でチットばかり嫌がられて来たチョボ一だ。どうなるものか…