両国 東京 巣鴨 浅草 銀座 永代橋

篇追加といへば落語に所謂「汲み立て」のすぐ次の章の両国風物詩であるから、云ふまでもなく夏景色。もう一つ、国芳の戯画にも月下

旧東京と蝙蝠

里に卜居して残花の午下りを、嘱されて旧東京夏宵の追懐など閑文字を弄する境涯になつてゐられようとは、どう

私は、昨年の明日、東京巣鴨花街の居宅を兵火に焼かれた。それから一年目の今日、

年少返らぬ日の東京街上の夏景色をおもふとき、忽ちにして眼底に蘇へり来るは群青

蝙蝠もまた旧東京文化の灯かげに生育したものにとつては、何にも換へがたくなつかしい

私の手許にはなかつた。嘗ての軒低く町並暗い明治東京の町々を、ながい／＼棒と脚立とを手に小走りに駈よつて

なくして今度は打続く防空の調練、ネオンの御法度に忽ち全東京は青々園や埋木庵が探偵実話を発表してゐたころのやうな

は宛かも佳人の急逝にも等しかつたが、先達てまでの東京の断末魔は「累ヶ淵」の富本豊志賀、一と日一と日と容貌衰頽

てゐた。従つて大正震災に突如焼失したる旧東京の終焉は宛かも佳人の急逝にも等しかつたが、先達てまでの東京の

編入されてしまつた。従つて私は今日再び東京が焦土に化したが、ただその戦災地の眺めの余りにも殺風景なる

私は、昨年の明日、東京巣鴨花街の居宅を兵火に焼かれた。それから一年目の今日、ここ

た半生を了つて漸くに私が女房と冒頭誌した巣鴨花街へ居を構へた年の冬、忌む可き大戦争は勃発した。

うとしていま、程なく訪れて来ようとしてゐる巣鴨花街焼跡の今年の夏の夜の景色をば、私かにおもふ。復興遂に成ら

の念を抱かうとしない。強ひて云はうならかの浅草の観世音本堂、仁王門、五重塔ぐらゐのもの。私の幼少追憶の景観は已に

上から喪失させてしまつた。私の育成の地浅草花川戸界隈も同じくこのとき悉く旧観を失つて、そののちの復興区劃整理に

にのこる銀座夏の夜の景情といへば近年での西銀座そのころの南鍋町辺の裏通りにあつたドラゴンと云ふ酒亭のヴエランダの一夜

私の記憶にのこる銀座夏の夜の景情といへば近年での西銀座そのころの南鍋町辺の

戦災銀座が完全に改装復興されたそのとき恐らくや私は永井先生の「つゆ

をいま書けた許りの仄紅く双頬を興奮させながら遮二無二永代橋附近辺りのし歩いて行くわかき日の谷崎潤一郎のむらさきのトルコ帽の真上にも