根岸 弁天山 大阪 江戸 倫敦 本郷 巴里 下谷 宇都宮 仙台 深川 浅草 東京 田原町 神田 向島 上野 住吉 巣鴨 京橋

、はつきりと見えた。もうそのころには本郷からも根岸からも神田からも、遠方の親威の人々が続々と見舞に詰めかけて来て

私の家のおもて二階からは観音堂や仁王門五重塔さては弁天山の鐘撞堂などが、大銀杏の木かげ東錦絵のやうに美しく見えてゐた。

皮肉巧緻であつたと聞くその演技の記憶は殆んどない。大阪上りの嵐芳三郎は大柄の顔容、昼の部の歌舞伎劇を演じたあとさらに

が、茹蛸のごとき禿頭をそのまゝ己の芸名とするこの江戸生粋の老芸人はげ亀は、ビール瓶の曲技に長じ、また先代岩てこバンカラ辰三郎

は、その友人を省みて、激しく脳天を殴打する蛮風は江戸独自のものであらうと非難してゐたが、いづくんぞ知らん、爾来

に擬して口に咬へ仁木よろしくの引込となるなど、江戸八笑人和合人の文明をそつくり再現したやうなリファインされたもので

て「ゆく雁や屑屋くづ菊四郎」の一句があつた江戸前面長の老優で晩年は専ら帝劇に出演してゐた。外記を演じた

吉原に見返り柳丈けの江戸

には電気応用キネオラマの見世物があつて、花の巴里か倫敦か、月がないたかほとゝぎす、古風な西洋館の窓々の灯へはすさまじく大

ゐるのが、はつきりと見えた。もうそのころには本郷からも根岸からも神田からも、遠方の親威の人々が続々と見舞に詰めかけ

三友館には電気応用キネオラマの見世物があつて、花の巴里か倫敦か、月がないたかほとゝぎす、古風な西洋館の窓々の灯へ

成長ののち私は永井先生の「下谷の家」一篇を読むに及んで、明治廿年前後の小石川富坂辺

のため慶祝し度い。私はまたその中村鶴若が「宇都宮釣天井」に於る大工与四郎に扮して、片鬚剥取られた額に

も後日に及んで聞き知つた。訥子の「実録仙台萩」の浅岡、工左衛門の「茶屋場」のおかる、源之助の伊豆守など

ゐた。滝松は常に拍子木を打鳴らしては深川活惚伊勢音頭などを鉄火に諷ふ、ギス／＼した感じの男

の景情と化すをおぼえたと瞠目してゐられる。同じ深川節中に於て、絞るやうに固くキリ／＼と巻いた豆絞りの手拭

異版　浅草燈籠

ないのは、三歳から十四歳までの春秋をおくつた浅草花川戸の家である。祖父、祖母、大叔母、小婢と私の一家五人

たのであるが、境遇の激変は一そう私をして浅草を、花川戸界隈を、年寄たちへの哀慕の念と共に恋々と

さるにても私は、間もなく浅草と別れ、花川戸の家と別れ、慕はしい年寄たちには死別、山の手

来た。そのくせ私はお祖母さん子の内弁慶で、浅草にゐるじぶんにはおもてで近所の子供たちと遊ぶなどおもひも寄らない意気地なし

浅草の三筋町から腰屋橋へ抜ける、とある裏通りに、称念寺と称へる

しつゞけて、伝へ聞く女義太夫の堂摺連やそのころ浅草六区に大人気だつたオペラ女優に於るペラゴロのごとく、日夜、この女

いやはて、荒涼暗澹と私がしてしまつたとき、早や浅草の空には春がおとづれて、十二階のガラス窓の一つ

少年時代を浅草におくつた私の胸底には、いつも凌雲閣十二階高塔の赤煉瓦

であらうか。それともむざ／＼振棄てゝ来た浅草の舞台の役と人気とに未練と悔恨との入れ乱れた感情を、

か、今日その経路をば知る由もないが、うそにも浅草六区の人気役者たる彼が食指を動かしたその村娘は、定めし十人並

浪花節のなんせんすに十二階随一の人気者としてよく全浅草を圧倒してゐた。少うし舌を丸めて甘へるがごとく喋る調子

今日にして浅草宮戸座は、黙阿弥、三世如皐、其水、新七らが特定狂言の

入つて再び二階へ上がつて見ると怖しい火勢は最早浅草学校の長い黒い建物の背後を一めん唐紅に塗潰してしまつてゐて、

へ上がつて北向の窓を開けて見ると、正面の浅草学校の校舎の裏手に一とすぢ焦茶いろの煙りが横にながれて

月九日と記憶してゐるが、木村富子女史が「浅草富士」はその折の大火災の顛末を「半襟火事」と題して、具さ

祖父はつひに死ぬまで「東京」を「とうけい」と発音し、また「日々新聞」を「ひびしんぶん

だ懐旧の念に耐えない。夢二にはもう一首、東京百美人の写真もいまはなしの上の句を持つた作品があつたはずで

れてゐなかつたが、二銭銅貨を投じると極彩色東京名所写真十二葉が音匣の音いろも哀しく展開される覗眼鏡は各階毎

洗ひ髪お妻の艶名を洛陽に高からしめた東京百美人の写真は飾られてゐなかつたが、二銭銅貨を投じる

二百幾十尺を数へる尖塔の姿こそ、ほんたうに文明開化東京の象徴だつた。黄昏ちかく深紅の夏日が反映すると塔の玻璃窓

池へ真逆様にその塔影を映した十二階、いづれも開明東京の美観ならぬはなく、この二百幾十尺を数へる尖塔の姿こそ、

上演されたことを識つてゐる人々も亦追々とこの東京からなくなつて行くであらう。否、否、その曲り金とは今日の

廃され、一夜千金の花魁が横行してゐるらしいが、東京に生育した小説家の責務として私はせめてその外観丈けでも一見

東京名墓顕彰会席上講演即興

随分佗びしい場末のやうな屋並で彼処から堀田原を抜け、田原町の蝋燭屋のところへとでるまで殆んど灯らしい灯のいろをみいだすことは

自殺防止のためである。奇矯瓢逸の講釈師、当代の神田松鯉は先年、十二階飛降り自殺者が塔下の魔窟の屋根へと落下し

と見えた。もうそのころには本郷からも根岸からも神田からも、遠方の親威の人々が続々と見舞に詰めかけて来てゐた

東北線車窓から眺めた十二階、上野西郷銅像畔また向島堤から見渡した十二階、さては六区瓢箪池へ真逆様にその塔影を

」の上演にも彼らは金井半兵衛鳥目、有馬入湯、向島秋葉の原忠弥正雪出会と殊更にひねつた三場を上演することを忘れ

東北線車窓から眺めた十二階、上野西郷銅像畔また向島堤から見渡した十二階、さては六区瓢箪池へ

ない。閑話休題、梅坊主一座の漫舞には他に桃太郎、住吉踊、雀踊りの顎合はせ、大津絵などがあり、舞踊と舞踊との

に掬す可き殊玉篇である。吉原大火の火災が遠く巣鴨の辺僻から望見されたと云ふ小説も野上臼川氏の旧作中に

れたものかもしれない。『下町物語』の作者は京橋大根河岸の住、のちにこの仁も亦狂死したとか聞いてゐる