下町歳事記 / 正岡容
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「入谷の寮のかの新造二人、一人はなか/\おちついてゐるをんなにて、いまの
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、たまさか団蔵がかへつて来て仁木を演つたり、大阪から斎入や多見之助や鴈次郎が上京したりすると、それが永く永く
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宗十郎が云つた、昔、今戸に住んでゐた沢村宗十郎が。
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やうな、あくまでサラリとした旧東京の大雪でない。江戸このかたの大雪の景色でない。つまり広重でない。清親でない。これは先生
に、サラツと降つてカラツとあがる、いかにも思ひきりのいい江戸のしぐれのふらせ方をしてゐられる。此が北国のしぐれだつたらとても
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子供の時分、本郷の菊阪にはギイと木戸を開け、石段を下りて行くと、「天野
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の富士山印東京レコードなる故柳家枝太郎が大津絵の「両国」の一節に聴くもよからう。
好く軒を列ねて勝手道具の数々を売つてゐる枝太郎の「両国」宛らの有様をば目に描いて、
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でない。清親でない。これは先生の御郷里たる加賀金沢の古びた城下にしん/\とふる雪である。犀川べりに浅野川の
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水の青さ、一石橋の甃石の日の光りは岡山生れでありながら東京錦絵風景を好んで愛された画伯の筆によくよく写さ
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でゐたと云はれる橋本町の方へつづいてゐる。ちよつと長崎をおもはせる小さな石造りのめがね橋が、佇むと反対の側の東の方
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先づ十二月の十四日、深川の八幡さまを皮切りとするこの東京の年の市は、次いで十七十八日
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とえがいてゐられるが、此は断じて東京の大雪でない。勿論、先生も「紅梅の咲く頃なれば、斯くまで
云つた句に見られるやうな、あくまでサラリとした旧東京の大雪でない。江戸このかたの大雪の景色でない。つまり広重でない。
としぐれとはちがふけれど、くどくも云ふとほり所詮が東京の大雪は、どんな大雪でもこのしぐれとおなじ宵越の銭を持たない
か。この点私たち東京育ちのものは巧拙に関らず、東京中の大ていの昔の町、昔の風情ならえがけるつもりだけれど、地方から
濁つた感じにピタリと来てゐることか。この点私たち東京育ちのものは巧拙に関らず、東京中の大ていの昔の町、昔
一石橋の甃石の日の光りは岡山生れでありながら東京錦絵風景を好んで愛された画伯の筆によくよく写されてゐるけれど、
は嘗て私に教へて呉れた。明治開化の、チヤチな東京版画(それ故にこそなつかしい!)を沢山描いた、三代広重の末孫だら
には、風船あられの工場があつた。――スペンサーが東京開化の碧い空を飛んで以来、お成街道にでき上つた風船あられ屋
」売声のまくらで落語家がよくやるハタと人足絶えた旧東京の日盛りの街々をおもはせてなつかしい。
東京の声
などと発音する当時のアナウンサー諸君を叱正し、希くは東京の声で正確にアナウンスしてもらひたいと書かれたものだつた
鏡・南龍・南玉などは、仮に類音を求めるならば東京・放送・天然・行進と云ふやうな言葉の場合の発音でやつて頂き
取り戻す可し東京の声。(昭和十四年秋)
十二月の十四日、深川の八幡さまを皮切りとするこの東京の年の市は、次いで十七十八日が浅草の観音さまで、廿日
旧東京版画の上に偲ぶ可し。さらに大正年代の富士山印東京レコードなる故柳家枝太郎が大津絵の「両国」の一節に聴くもよからう。
年の市の夜の賑はひは、いま此を小林清親が旧東京版画の上に偲ぶ可し。さらに大正年代の富士山印東京レコードなる故柳家枝
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ほんとでないのだ、高篤三所蔵「風俗画報」の「浅草名所図絵」の挿絵家山本松谷は流石に心得たもので三味線堀の図
とするこの東京の年の市は、次いで十七十八日が浅草の観音さまで、廿日廿一日が神田の明神さま、そのあと芝
まけて小雪のちら付いて来ることも屡々だつた。この浅草の年の市の夜の賑はひは、いま此を小林清親が旧東京版画の
浅草の市、神田の市のそのころは、ともするととろんとあぐねて曇り
曰く※浅草市の売物は、雑器に塵とり貝杓子、とろろ昆布に伊勢海老か、桶ァ
亡師父三遊亭円馬が「姫がたり」と云ふ落語。浅草市の晩妖艶の悪婆がお姫さまに化けて、虚病をつかひ
さてまた浅草の話へ戻つて、いまも焼けずにのこつてゐる二天門あたり注連
以上を発表してすぐ同じ浅草育ちの高篤三からは左の葉書をもらひ、さらに昭和十八年十月
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同じことが竹久夢二画伯の版画の上にも云へる。日本橋堀留の水の青さ、一石橋の甃石の日の光りは岡山生れ
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いま、どこかへ退けてしまつた蔵前高工の真後で、大川とすれ/\のところに生えてゐる一ともと
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八日が浅草の観音さまで、廿日廿一日が神田の明神さま、そのあと芝神明(廿二日)芝愛宕権現(廿四
浅草の市、神田の市のそのころは、ともするととろんとあぐねて曇りがちの、夕
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の水が麗な青空の色を其のままに映してゐる曳舟通り。」
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浅草橋
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薬研堀だつたが、明治末からか大正からか俄に銀座の繁昌が一ときはとなつて、大晦日あすこの西側にも年の市が立つやう
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鞍掛橋の下をながれる水は、神田川のわかれだらうか、鴨南蛮の黒い細い煙突や大和田のあの店構へを尻目