山の手歳事記 / 正岡容
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猿飴の猿に湯島の時雨かな綺堂
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」(故陵潮種と聞く)では久々に遠国から江戸へでて来た於松が故郷深川へと舞戻る可く品川から、この永代行乗合
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お台場
船が復活されると聞く。盛夏に限つて永代橋、お台場を快走してゐたモーター船もやがて再開す可きであらう。
へるに似たりと明治の新体詩人大和田建樹が讃嘆したお台場ちかくにはうろ/\舟が幾艘となく泛んでゐて、氷、西瓜
もいつの日のことであらう。(稿後一年、お台場に夢の島生れ、大伝馬の遊覧船がいまや涼しく大川を往来しだして
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匂ひいと高い昔ながらの木づくりの猿の看板をかかげて本郷湯島の猿飴は、昭和十八年の末ちかくまで本郷三丁目から湯島天神祠へ至る
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なく過してゐるうち、たしか終戦時の歳晩この老席亭は甲州の疎開地に於て、長逝されたと云ふことを新聞紙上の死亡広告
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几二脚程重ねあり、前側葭簀立廻しあり、此の側に永代両国乗合船の立札、側に船板の崩れ、櫂の折れなど積みあり、上の方松の立木、
夜更の遠見、裾通り雁木の柵の頭を見せ、よき所に永代両国出船と記したる立札あり、上の方たゝんである茶店、下の方に石置場、柳の
れない。いづれにもせよ、両者の作品に見られる「永代両国乗合船」の立札は正しく八つ山下の海辺には累年風雪に曝されて立てられて
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では久々に遠国から江戸へでて来た於松が故郷深川へと舞戻る可く品川から、この永代行乗合舟へ乗込むの件りがある。
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松林円盛が伯円種として此を読み、当代の神田五山七世貞山それ/″\この怪盗伝をば手がけると聞くが、此又
れて立てられてゐたものなのであらう。現に故神田山陽が演じた「鬼神の於松」(故陵潮種と聞く)では
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池の端根津方面を眺望するこの庭園の景観はすべて昭和現代の東京に鏡花が「通夜物語」、鴎外が「雁」の時代文化を遺存し
仕組みのものではなかつたらしいが、今日にして一種東京人のさゝやかな遊楽場であつたことは確かである。
先生の「冬の蠅」にでて来るやうな明治中世東京各地に散在したかの連込み専門の温泉旅館と同じ仕組みのもので
交通不便の故もあつたらうが、何より往昔の東京民族はほんの身近の起臥の中にもこのやうに普ねく生活を愉しむ
たこの離れ小島は、かくしてその百年後には東京平和の遊民が灼熱時の楽園と変化した。戦後生残りの私たちがこの
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品川の海
長谷川時雨女史は嘗て品川の所謂ステンショが波打ち際に建てられてゐて夏の明方など旅客は列車
広重には珍しく大胆でありその車輪の彼方に展開される品川の海と雨後の虹と砂地に喰べ棄てた西瓜の紅と草鞋の黄
から江戸へでて来た於松が故郷深川へと舞戻る可く品川から、この永代行乗合舟へ乗込むの件りがある。然り而うして
であるが、であるからとて殊更に其水文化年間の品川風景を描く可く苦心したとも考へられない。やはり彼は現実に己
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往来の蒸汽船が復活されると聞く。盛夏に限つて永代橋、お台場を快走してゐたモーター船もやがて再開す可きであらう。