押絵と旅する男 / 江戸川乱歩
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、とうとうその覗き絵を手に入れ、それを持って、箱根から鎌倉の方へ旅をしました。それはね、兄に新婚旅行がさ
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その覗き絵を手に入れ、それを持って、箱根から鎌倉の方へ旅をしました。それはね、兄に新婚旅行がさせて
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遙かな能登半島の森林が、喰違った大気の変形レンズを通して、すぐ目の前の大空
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兄が外国船の船長の持物だったという奴を、横浜の支那人町の、変てこな道具屋の店先で、めっけて来ましてね。
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その後、父は東京の商売をたたみ、富山近くの故郷へ引込みましたので、それにつれて、私もずっとそこ
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魚津の駅から上野への汽車に乗ったのは、夕方の六時頃であった。不思議
ですよ。よござんすか。しますとね、兄は上野行きの馬車鉄道を待ち合わせて、ひょいとそれに乗り込んでしまったのです。
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親爺が呉服商を営んで居りましたがね。何でも浅草の十二階が出来て、間もなくのことでございましたよ。だ
いましたがね。まあ考えて御覧なさい。その頃の浅草公園と云えば、名物が先ず蜘蛛男の見世物、娘剣舞に、玉乗り、
をつける。そうして、行きついた所が、なんと浅草の観音様じゃございませんか。兄は仲店から、お堂の前を
場所に、一人ぼっちで、遠眼鏡を目に当てて、しきりと浅草の境内を眺め廻して居りました。それをうしろから見ますと、白っぽく
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た。当時、私も兄も、まだ部屋住みで、住居は日本橋通三丁目でして、親爺が呉服商を営んで居りましたがね。何
着ましてね、この遠眼鏡を肩から下げ、ヒョロヒョロと、日本橋通りの、馬車鉄道の方へ歩いて行くのです。私は兄に気どら
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に、とんがっていて、ちょっと高台へ昇りさえすれば、東京中どこからでも、その赤いお化が見られたものです。
が手の届きそうな低い所にあって、見渡すと、東京中の屋根がごみみたいに、ゴチャゴチャしていて、品川の御台場が
の余になりますので、久々で兄にも変った東京が見せてやり度いと思いましてね、こうして兄と一緒に
その後、父は東京の商売をたたみ、富山近くの故郷へ引込みましたので、それにつれ
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東京中の屋根がごみみたいに、ゴチャゴチャしていて、品川の御台場が、盆石の様に見えて居ります。目まいがしそうな
ておっかな相な顔をして、ボソボソ小声で囁きながら、品川の海の方を眺めて居りましたが、兄はと見ると、それ
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見ますと、それは八百屋お七の覗きからくりでした。丁度吉祥寺の書院で、お七が吉三にしなだれかかっている絵が出て居りました。
まだ店をかたづけないでいた覗き屋に頼みまして、吉祥寺の場を見せて貰いましたが、なんとあなた、案の定、兄は押絵