影男 / 江戸川乱歩
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いるのです。じいやはきのう、だんなさまのお言いつけで、箱根の別荘の庭の手入れをするために、そちらへ行ったのだというの
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「小林昌二というのです。九州の出身ですが、両親とも死んでしまって、東京にはひとりの身寄りも
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「そうか。それじゃ、品川の事務所へやれ。御殿山の家だ」
車はふたたび走りだした。御殿山にも殺人会社の事務所があるものとみえる。事務所というのは、つまりかれ
御殿山の近くまで走ると、また車をとめて、運転手だけが物見に出かけていっ
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ここでは、かれは大阪の貿易商社の若い社長鮎沢賢一郎であった。ゆうべおそく大阪から着くと、かれ
大阪の貿易商社の若い社長鮎沢賢一郎であった。ゆうべおそく大阪から着くと、かれのへやときまっている二間つづきの一室にはいったが
「飛行士の北野君いませんか。こちらは大阪の鮎沢……ああ、北野君、いてくれてよかった。このあいだ頼んで
の幸運を聞いて涙を流した。そして、自分たちも大阪の実業家鮎沢氏の世話になることを承諾した。かれら夫妻は鮎沢氏
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…品川の海、東京湾、その向こうに太平洋。一方には富士山がまわりの山々をしたがえて、くっきりとそびえていた。
は、巨大な観覧車の輪の頂上に達していた。富士山の雄大な姿もくっきりと見えている。この大空での殺人の話は、
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借りた。篠田青年はそれまで渋谷のアパートに住んで、丸の内の東方鋼業に通勤していたのだが、そのアパートを引きはらって、行く先
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えた。帝国ホテルも、山谷あたりのドヤ街の木賃宿も、上野公園のベンチでさえも、お茶の水渓谷の洞窟でさえも、差別なくかれの住まい
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世田谷区榎新田には、まだ畑がたくさん残っていた。収穫物のためで
にも地方にも多くの家を持っていたが、世田谷区の蘆花公園の近くにも、樹木の多い広い地所と、隠居所ふうの
「世田谷区のはずれの蘆花公園のそばですよ」
が、ついに逃げ場を失ったように、須原たちの自動車は世田谷区の、とある街道に立ち往生をしてしまった。
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受け取ると、黒覆面の世話で、その日のうちに、墨田区吾嬬町の小さなアパートにひと間を借りた。篠田青年はそれまで渋谷の
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四日めの午後、速水から電話がかかってきた。港区の麻布に、しろうと家の離れ座敷を見つけたから案内する。一時間も
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あたりのドヤ街の木賃宿も、上野公園のベンチでさえも、お茶の水渓谷の洞窟でさえも、差別なくかれの住まいとなりえた。
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のセビロ、ネズミ色のオーバー、ネズミ色の鳥打ち帽といういでたちで、東京周辺のある繁華街にまだ残っているブラック・マーケットの迷路の中を歩いて
、そのままどこまでも、どこまでも歩いていった。東京から山は見えなかったけれど、「山のかなたに住むという」何か
森の社や農家がおもちゃのように小さくなり、広大な東京の市街が目の届くかぎりひろがっているのが見わたせるようになった。そして
。九州の出身ですが、両親とも死んでしまって、東京にはひとりの身寄りもない独身の青年です。浅草の向こうの山谷の旭
ないような、まったく中間の声を出すのです。純粋の東京弁でも、いなかなまりでもない中間のことばを話すのです。つまり、
中音の東京弁に九州なまりが軽微に加味されていた。二宮夫人はそれを
秘密話にはもってこいの場所でしょう。目の下に東京の市街をながめながら、はるかに品川の海を見ながら、だれに立ち聞きさ
「東京ですよ。自動車で一時間もかかりません」
さえあった。この世の裏を見つくした影男にも、東京の地下にこれほどの驚異が隠されていようとは、思いも及ばぬ
秘密について、少しおたずねしてもいいでしょうか。東京の地下に、こんな恐ろしい別世界を現わすのは、いったいどこの国の幻術な
たとき、そこに広漠たる別の世界があるのです。東京の現実の町を無視して、見渡すかぎりの大平原や大海原があるのです
そこをくぐり抜けて階段を上がると、われわれの目から、この東京という現実の世界がまったく消えうせて、そこに別の一つの世界が
の風変わりな書斎を建築したばかりであった。影男は東京にも地方にも多くの家を持っていたが、世田谷区の蘆花公園
「東京港のボートの中で、お互いにピストルを見せあったね。きみが二五
では、もう非常線が張られているかもしれない。東京から外へ出ようとするのは危険だ。といって、都内の大道路
、とりこにした。それから、自動車を運転して、東京のいたるところにあるきみの根城をまわりあるいた。だが、その根城
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についたのはもう十二時すぎであった。彼女は渋谷の酒場街の仕事場から、十数町の掘っ立て小屋へ帰る道すがらが、
の小さなアパートにひと間を借りた。篠田青年はそれまで渋谷のアパートに住んで、丸の内の東方鋼業に通勤していたのだが
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「代々木の原っぱの中の一軒家。広い地下室があるんですって。団員はガウンの
真言秘密の呪文のような手つきをしてみせた。そして、代々木の密会所の位置を詳しく説明した。
その翌日の深夜、代々木の原っぱの一軒家の地下室で、異形の化けものが十数人集まっていた
の死体をのせた自動車は、それらの土地のうちで代々木からは最も遠い尾久のあき地に到着し、ヘッドライトを消して停車した。
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いるのが見わたせるようになった。そして、海が……品川の海、東京湾、その向こうに太平洋。一方には富士山がまわりの山々を
でしょう。目の下に東京の市街をながめながら、はるかに品川の海を見ながら、だれに立ち聞きされる心配もなく、ゆっくり相談ができる
「そうか。それじゃ、品川の事務所へやれ。御殿山の家だ」
、だまりこんでしまった。車は矢のように走った。品川から尾久までは相当の距離であった。尾久の隠れ家に近づくころには
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「この人は浅草で拾ったのです。バーを流して歩く艶歌師です。むろん、知り合いで
て、東京にはひとりの身寄りもない独身の青年です。浅草の向こうの山谷の旭屋という簡易旅館に、仲間といっしょに泊まって
「奥さん、浅草のバーではじめてお目にかかったとき、ぼくは何を歌いましたっけ
、佐川春泥と須原正とは、電話で打ち合わせたうえ、浅草公園の花屋敷の入り口で落ち合った。ふたりとも、サラリーマンというかっこうで、目だた
車は隅田川を越して、浅草から上野へと走った。
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ふたりはお互いにまったく知らないのです。あの青年は、銀座に出ているサンドイッチマンです。張り子の顔をかぶって、プラカードを持って歩い
「銀座裏にルコックという小さな暗いバーがあります。そこにちょっと仕切りをした
の会話が電蓄に消されてもいたけれど、宵の銀座のバーの中でこういう話をするというのは、まことに傍若無人
そして、その晩は、銀座のキャバレー『ドラゴン』のフロアの正面、最上の客席の一郭を占領して
いうがままに、女たちを引きとらせ、老人について銀座裏の小さなバーにはいり、奥の狭い別室に対座した。酒を命じ
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てきた。そのとき、影男は速水荘吉の名で、麹町のあるアパートにいた。
、地上世界に立ち帰った。そして、速水荘吉となって、麹町の高級アパートにはいったが、すると、そこにはいくつもの用件が
昌吉と川波美与子のふたりは、あの晩は覆面の男の麹町のアパートに一泊して、その翌日、百万円を預金通帳にしてもらっ
したのだ。そして、速水荘吉と名のり、ふたりをひとまず麹町のアパートへ連れていったのだ。
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「中央線の沿線で、荻窪の少し向こうです」
「荻窪まで、どれほどかかる?」
「よし、荻窪だ。荻窪から青梅街道を少し行ったところだ。そのまえに電話をかける。公衆電話
「よし、荻窪だ。荻窪から青梅街道を少し行ったところだ。そのまえに電話をかける
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車は隅田川を越して、浅草から上野へと走った。
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ようになった。そして、海が……品川の海、東京湾、その向こうに太平洋。一方には富士山がまわりの山々をしたがえて、くっきり
「青年時代に東京湾を横断したことがあります。すると、お互いに溺死させられる
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車は隅田川を越して、浅草から上野へと走った。
に置いてあった自動車を、自分で運転して、遠く隅田川の河口に向かった。