本郷 養源寺 本所 吾妻橋 赤坂 雷門 大阪 三囲神社 厩橋 弁天山 東京 浅草 千住 上野 上野広小路 向島 銀座 曳舟 隅田川

本郷の西片町には、山野夫人の伯父に当る人が住んでいた。両親を

「アア、養源寺ですか。あすこはあなた妙なお寺でございましてね、お住持お一人

のない事をつけ加えた。「それはそうと、あなたは養源寺のお住持さんを御存じなの？」

それは、あなたの神経のせいかも知れませんわ。養源寺さんは嘘をいう様な方ではないのだし、それに近所の人

従って、山野家を訪問したり、浅草公園や本所の養源寺の附近をうろついて見たりしていた。山野家にも新しい出来事は起ら

なことがあるのですよ。小林君は一寸法師が養源寺へ入る所を確に見たのですが、お寺でもそんなものはい

で消失した。例の気味の悪い一寸法師は、養源寺の庫裏へはいったまま消えてなくなった。そして今夜は山野夫人の番だ

「養源寺の裏手へ抜けているんだ。君は気づいていたかどうか。養源

ているんだ。君は気づいていたかどうか。養源寺は中之郷Ａ町にある。そのＡ町とＯ町とは背中合せじゃないか

とＯ町とは背中合せじゃないか。つまりＡ町の養源寺から入ってＯ町へ抜けることも出来れば、Ｏ町の例の家から養源寺

Ｏ町へ抜けることも出来れば、Ｏ町の例の家から養源寺の寺内を通ってＡ町へ抜けることも出来るんだ。表通りを廻れば二三

もあるけれど、抜道からでは隣同志だ。ところが、養源寺といえば、いつか君が一寸法師の入るのを見た寺だ。ね

の逃道はもう一つあるんだ。同じＡ町の養源寺の墓場の裏手に、これも背中合せだが、妙な人形師の店が

「養源寺の和尚さ」

素人探偵の指図に従わねばならなかった。彼等は養源寺、Ｏ町の家、人形師の住居と三手に分れて、それぞれ入口に

頼んだ。そして彼自身は紋三と一人の刑事を従えて養源寺の門内に入って行った。

として疑うべき人物が五人あった。第一は養源寺の和尚即ち例の不具者ですが、これはもっとも兇悪無慙の気違いには相違

化けた三千子に金を与えて家出させたのも、養源寺の和尚や蕗屋を買収したのも山野氏だった。山野氏のそんな

取って明智が説明した。「これもやっぱり山野氏が養源寺の和尚を過信した結果なんですが、死体運搬をした蕗屋君

判断に従って、山野家を訪問したり、浅草公園や本所の養源寺の附近をうろついて見たりしていた。山野家にも新しい

音を立てて、人通のない、堤の上を、吾妻橋の方へ、飛ぶ様に消え去った。

のあったことは君も知っているだろう。ゴミ車は吾妻橋の所で行方が分らなくなったのだが、君から一寸法師のこと

食事を済せると自動車を呼ばせて、明智の泊っている赤坂の菊水旅館に向った。紋三は妙にうれしい様な気持だった。美しい山野

聞いてしまうと山野家を辞して、夫人の跡を追い赤坂の明智の宿に向った。彼の頭には様々の事柄がモヤモヤと渦

た様にそこの自働電話に入り、一寸手帳を見て赤坂の菊水旅館の番号を呼んだ。相手が電話口に出るまでに十分程

雷門で電車を降りると、吾妻橋を渡って、うろ覚えの裏通りへ入って行った。

雷門で電車に乗ってからも、彼は妙にぼんやりしていた。何か

御存じの事情でしょう。私ほんとうに困ってしまいましたわ。大阪の方に少し心当りが出来たものですから、主人は昨夜用もないのに

「では御主人が大阪の方へお出でになったといいますのは？」

御暇を願って、その晩の汽車で彼の郷里の大阪へ立っています。その時彼が単身で、女の同行者などなかったこと

御主人は大阪で蕗屋にお逢いなすっているのではありませんか。お目に

山野大五郎氏は大阪から帰って以来、床についた切りだった。軽度の発熱が続いて、

一人娘の三千子の失踪にあることは疑うまでもなかった。大阪行の結果が失望に終った上に、留守中明智小五郎の意外な発見に

小間使の小松の行方を捜索した。情人の蕗屋が大阪の実家に帰っているのだから、外に身寄りとてもない小松は、きっと彼

やったのかも知れません。主人があの男を態々大阪まで追っかけて行ったのは、三千子を誘拐したのを、取戻すためだと

堤に出て、少し行って、だらだら坂を下ると、三囲神社の境内だった。山野夫人は坂の降り口の所で、又注意深く左右を

三囲神社の境内は、墓場の様に静だった。堤の上の安全燈からさす

三囲神社から半町程上手の堤に沿って、ポッツリと一軒の毀れかかった空家が

、それから先は、橋を渡ったのか、河岸を厩橋の方へ行ったのか、それとも左に折れて業平橋の方に

殊に仁王門を這入って右手の、五重の塔、経堂、ぬれ仏、弁天山にかけての一区劃は、宵の内からほとんど人通りがなかった。広い公園

大正十五年十二月七日「東京朝日新聞」

へ入って行った。その辺は貧民窟などがあって、東京にもこんな所があったかと思われる程、複雑な迷路をなして

考えられないから、上の郷表に相当する町名は、東京中に中之郷Ｏ町の外にない。僕は早速あすこへ行って見た

だか帰る気がしなかった。それに春の夜の浅草公園が異様に彼をひきつけた。彼は歩くともなく、帰り途とは

は小役人といった様なしかつめらしい男で、一方は純粋の浅草人種なのだ。それが、電車もなくなろうというこの夜更けに、暢気相

でひどい目に逢っちまったんですよ。実は僕昨夜浅草公園へ行ったのです」紋三は極り悪そうにいった。「暗い公園

彼自身の判断に従って、山野家を訪問したり、浅草公園や本所の養源寺の附近をうろついて見たりしていた。山野

もう夜の一時を過ぎていた。浅草公園もその時刻になると、流石に人足が途絶え、よいの内雑沓する

それを売って生活していたのだった。賑やかな浅草観音の境内の、五重の塔の中に、こんな泥坊が忍び込んでいようとは、

昨六日午後府下千住町中組――番地往来の溝川をさらっているうち人夫木田三次郎がすくい上げた

はお読みになりませんでしたか。今朝の新聞に千住の溝川から若い女の片足が出て来たという記事がのってい

いる点です。小林君の見たことといい、例の千住の片足事件といい、（もっともこれは全然別の事件かも知れません

もいうんじゃねえぜ。おらあな、一本の足を千住の溝の中へ、一本の足を公園の瓢箪池の中へ、

電車が上野山下をすぎた時、だれかが彼の前に立って声をかけた

彼等はそうして三十分以上も上野の山内を歩きまわった。紋三は三千子の家出の顛末を聞き訊し、山野

上野広小路で電車をおりると、二人は肩を並べて公園の方へ歩いて行っ

車はやがて隅田川を渡り、川沿いに向島へと向った。吾妻橋を通り過ぎる時には、紋三は今朝の不愉快な一

山野氏の自宅は向島小梅町の閑静な場所にあった。自動車は威勢のいい警笛を鳴しながら、

だが、三日目の四月十日の夜、銀座通りの有名な百貨店に、前代未聞の珍事が出来した。そして、山野三千子失踪

「銀座の――百貨店の呉服売場なんです。実にこの事件は変な、

少しの我慢です。この辺を右に折れて行けば、曳舟の停車場があるはずです。そこから汽車にのりましょう。そしてどっか遠いところ

車はやがて隅田川を渡り、川沿いに向島へと向った。吾妻橋を通り過ぎる時には、

二三町も行くと、道は隅田川のさびしい堤に出た。対岸の家々の燈火が、丁度芝居の書割りの

電車通りも無難に越して、彼等はいつか隅田川の堤へ出ていた。その外に逃げ道はなかったのだ。夫人